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学生のうちにマイノリティ経験を |ダイバーシティと東大 02|伊藤たかね 副学長の巻

掲載日:2021年9月6日

このシリーズでは、東京大学のダイバーシティ(多様性)に関する課題や取り組みを、教員たちへのインタヴューを通して紹介していきます。 東京大学は多様な背景をもった人たちが、活き活きと活動できる場の実現を目指します。

多数派として育ってきた学生には、少数派の立場に身を置く経験をしてほしいと伊藤たかね副学長は話します。@freshidea/Adobe stock

 

今年4月、ダイバーシティ教育を担当する副学長に就任した伊藤たかね先生。三十年以上にわたり駒場キャンパスで学生と接するなかで感じてきたのが、同じような環境に育った学生が多いということです。東京大学の学生の圧倒的多数は男性、特に都市部の中高一貫の男子校出身者で、親の経済状況や教育歴などの家庭環境も似通っている場合が多いと指摘します。

「実際にそのような学生が多いということだけではなく、自分と全く違う環境にいる人と付き合うことがないままここまできてしまっている、ということがすごく問題だと思っています」

それはある意味、多様性について学ぶ「重要な教育の機会を奪われてきた」とも言え、「そこを何とか取り戻すような教育をできたらと思っています」と話します。


大学生からのダイバーシティ教育

ダイバーシティについての理解を深めることは、グローバル化した社会で活躍し、異なる価値観やバックグラウンドを持つ人と対話する力を育成するためにも欠かせません。

伊藤たかね副学長写真
伊藤たかね副学長  

では大学生になるまで、多様性について学ぶ機会が少なかった学生にどのように教えるのが良いのか?それは、理屈、理論から教えることと、体験的・実習的な演習とをセットにすることだと言語学が専門の伊藤先生はいいます。

「語学習得と同じで、幼い頃から自分とは全く違う環境や文化をもつ子供たちとごちゃ混ぜになって育っていれば知らぬ間に身につけることができますが、大人にダイバーシティについて教えるということになると、きちんと系統立てて知識を伝えることが重要になってきます」

伊藤先生が実現したいと考えているのが、ダイバーシティについて体系的に伝授できるような講義を1セット作ることです。まだ手探り状態ですがと前置きしたうえで、ダイバーシティやインクルージョンに関する分野を専門とする先生方に講義をしてもらい、その上で、反転授業のような形で、身につけた知識を部分的にでも実践できるような演習を行えれば理想的だと話します。そのための環境や体制を作っていけるように働きかけていきたいといいます。

ダイバーシティ教育の一つとして、東京大学が今年度新たに始めた取り組みもあります。7月 に、ダイバーシティやインクルージョンについて学べる啓発動画をITC-LMS 学習管理システムで公開しました。それぞれ10分から20分程度の長さの動画が計5本用意されており、専門分野の第一線で活躍する教員が作成した講義形式のものと、学生団体の助力を得て完成したアニメーション形式のものがあります。学部の1、2年生を対象にしたこれらの動画では、バリアフリー、ジェンダー、多様な性的指向と性自認、そして性的合意といったテーマについて学ぶことができます。

「これらのテーマについて考えたこともない学生も多いと思うので、このようなことを考えなくてはいけないと気づく、いいきっかけになると思います」

自分にとっての「当たり前」を疑う

東京大学の文科三類の学生だった大分県出身の伊藤先生。地方の公立高校出身で女性という少数派を経験することで、異なる立場があると気づくことができたと当時を振り返ります。そんな伊藤先生が、学生のうちに「是が非でも」経験してほしいと強調するのが、マイノリティ(少数派)の立場に身を置くことです。

「多数派だということは、自分の常識は友達の常識でもあるわけで、何も言わなくてもここまでは当然だと無意識のうちに決めつけている部分がありますが、違う集団にいくと、その前提が全く違うんですね。自分の前提を疑う必要がある、ということをきちんと身につけることが重要です。自分の常識が当たり前だと思っているだけだと、見えるものが限られてきてしまうと思います」

そこを実感として理解し、対話の力をつけるために効果的な方法は、「自分が少数派の立場に立つことだと私は思っています」と伊藤先生。異なる文化や価値観のなかで生活できる留学などは理想的ですが、身近でも、例えば留学生が中心になっているイベントに参加するとか、手話が主な伝達手段になっているカフェなどに行ってみるのもいい経験だと話します。

「自分の常識を崩し、いろいろな体験をすると、物の見え方が広がってきて自分の中に閉じこもっていては見えなかったものが見えてくる。社会で活躍できるという意味でも、自分の視野を広げるという意味でも、それが一番重要だと思います」

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