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秋にモミジが赤くなるのはなぜ?→樋口裕美子|素朴な疑問vs東大

掲載日:2022年9月27日

素朴な疑問vs東大
「なぜ?」から始まる学術入門

言われてみれば気になる21の質問をリストアップし、その分野に詳しそうなUTokyo教授陣に学問の視点から答えてもらいました。知った気でいるけどいざ聞かれると答えにくい身近な疑問を足がかりに、研究の世界を覗いてみませんか。

Q.2 秋にモミジが赤くなるのはなぜ?

樹木の中には秋になると赤や黄色に色づくものがあってすごくきれいですが、そもそもなんで紅葉するの? 人を喜ばせるため?
A.植食性昆虫に警告を発したいからかも
回答者/樋口裕美子
HIGUCHI Yumiko
理学系研究科 助教

自分を食べてもいいことないよと警告!?

葉には、光合成に重要なクロロフィルという、緑色をつかさどる色素が含まれています。イロハモミジなどの樹木では、秋になって寒くなるとこれが分解され、一方でアントシアニンという色素が合成されることで、葉が赤く色づいて見えます。ちなみにイチョウの葉などが黄色くなるのは、葉にもともと含まれていたカロテノイドという色素が、クロロフィルが減って目立つようになるためです。

では、葉は何のために赤くなるのでしょう。アントシアニンを合成する目的は何でしょうか。ここでは二つの仮説を取り上げます。

一つ目は、過剰な光から葉を守るという説です。クロロフィルの分解により光合成活性が落ちた状態の葉に過剰な光が入ると、細胞へのダメージや早期落葉がもたらされます。それを防ぎ、葉から幹へ養分の転流を促すためにアントシアニンが合成されている可能性があります。アントシアニンは短波長の光を吸収するため、日傘のように入ってくる光の量をやわらげる効果があると考えられます。

二つ目は、植食性昆虫に対する警告という説です。自分は防衛物質が多い、もしくは栄養性に乏しいなど、食べてもいいことはないから近づくな、と伝えるシグナルとしての赤色です。これは、秋に樹木に移動して越冬性の卵を産み、春に孵って害をもたらすアブラムシのような昆虫を想定しています。アブラムシなどは葉を吸汁するだけでなくウイルスを媒介することもあるため、なるべく遠ざけたいわけです。

後者は特に、紅葉が昆虫との相互作用で進化してきたかもしれないという興味深いストーリーですが、検証はまだこれからです。仮説を支持する研究がある一方、否定的な研究もあり、今後の進展が期待されます。

葉の形によってオトシブミの利用しやすさが異なる

私の研究室も主に昆虫と植物の相互作用について研究しています。私は特にオトシブミという植食性の甲虫と葉の形の関係について調べています。オトシブミのメスは植物の葉を巻き、揺籃と呼ばれる葉巻を作ります。揺籃のなかには卵が産みつけられていて、孵った幼虫は揺籃の葉を食べて育ち、成虫になります。この揺籃は切って地面に落とされていることも多く、巻物の手紙のように見えるため「落とし文」の名が付きました(和菓子のモデルにもなっています)。

ムツモンオトシブミの成虫
ムツモンオトシブミの揺籃
葉に深い切れ込みがあるハクサンカメバヒキオコシ

私は、葉に切れ込みがあると揺籃を作りにくいのではと考え、先端に深い切れ込みがある葉とない葉で比較しました。すると、やはり切れ込みがある葉では揺籃作りが妨げられていました。オトシブミは葉を巻く前にその葉を歩いて調べる(=踏査)のですが、切れ込みがある葉ではルートに迷いが生じるのか、踏査が完了しないのです。現在、その条件を定量的に明らかにしようとしています。同じオトシブミの仲間でも複数の葉を使って揺籃を作るものもいれば、蛾や蝶の仲間には糸で葉を綴って巻くものもいます。こうした昆虫の多様な葉の加工方法と葉の形の関係性も探りたいです。

 
お知らせ
樋口先生が所属する理学系研究科附属植物園では、ミニ企画展「花と昆虫――東京大学植物園の研究展」が開催中です(小石川本園日光分園ともに)。所属研究者の研究成果や採集した昆虫標本をご覧いただけます。

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