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葉はどうして緑色なの?→寺島一郎|素朴な疑問vs東大

掲載日:2022年11月15日

素朴な疑問vs東大
「なぜ?」から始まる学術入門

言われてみれば気になる21の質問をリストアップし、その分野に詳しそうなUTokyo教授陣に学問の視点から答えてもらいました。知った気でいるけどいざ聞かれると答えにくい身近な疑問を足がかりに、研究の世界を覗いてみませんか。

Q.16 葉はどうして緑色なの?

光のエネルギーと二酸化炭素と水から糖などの有機物を作り出す光合成。太陽光を効率よく吸収するには黒い葉がいいのでは?なぜ緑なの?
A.緑色光が漏れ出るから
回答者/寺島一郎
TERASHIMA Ichiro
理学系研究科 教授
可視光スペクトル 波長400~700 nm
人間の目で見える領域の光が可視光線です。可視光線は光の波長が短い方から、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤の順に並んでいます。

大きくて効率が悪い酵素「ルビスコ」

二光源照射装置を使って光合成を測定しているところ。

私たちから見て黒いということは、全ての光を吸収しているということなので、確かに光吸収効率の面からは黒い葉が理想的です。しかし葉には、光吸収率を100%にできない理由があります。

その最大の理由が、光合成において二酸化炭素(CO2)固定を触媒するRubisco(ルビスコ)※という酵素の効率の悪さです。ルビスコは大きく、CO2固定速度が遅い。太陽光を光合成に利用して多くのCO2を固定するためには、大量のルビスコが必要です。葉をすりつぶして調べると、ルビスコの量は葉のタンパク質の30~50%にもなります。

ルビスコのCO2固定速度を最大にするには高い濃度のCO2が必要ですが、現在の大気濃度ではそれを実現できません。また、ルビスコはCO2ではなく酸素(O2)を固定してしまうことがあります。O2を固定すると光合成を阻害する化合物が生成するので、その解毒と化合物に含まれる炭素の回収に多大なエネルギーが使われます。大量のルビスコを、なるべくO2に邪魔されないように高いCO2濃度ではたらかせるためには、葉緑体を薄く広げて、空気に触れやすい細胞の表面にはりつける必要があります。そして、その葉緑体の全てに十分な光を供給しなくてはなりません。つまり葉は、なるべく多くの光を吸収するとともに、その光を葉の奥深くまでまんべんなくいきわたらせることも実現しなければなりません。そこで役立つのが緑色光です。

葉の中に潜り込める緑色光

光を吸収するのは葉緑体の中にあるクロロフィルですが、青色光や赤色光はこの色素分子に非常に吸収されやすいため、ほとんどが表側の柵状組織の葉緑体に吸収されてしまいます。一方、緑色光は吸収されにくいため葉の中に潜り込めます。潜り込んだ緑色光は屈折し、組織の中を行ったり来たりしながら葉緑体に何度も遭遇し、吸収されていきます。葉の裏側にある海綿状組織は、不定形な細胞からなるのでこの効果が顕著です。しかし、行ったり来たりする過程で、吸収されずに葉から漏れ出る光もあり、それにも緑色光が多いので葉は緑色に見えるのです。明るいところでは、ヒトの視覚の感度は緑色光で一番高いため、葉から漏れ出る緑色光はとても鮮やかに見え、緑色光がまったく吸収されないように錯覚してしまいます。しかし、実際には緑色光はかなり吸収され、効率よく光合成に使われます。一般の緑葉が赤色光や青色光を90%程度吸収しているのに対し、緑色光の吸収率は70%~80%程度です。いったん吸収されれば、緑色光の光合成を駆動する効率は青色光よりも高く、赤色光と同じ程度です。

地球環境はこの100万年間に氷期と間氷期を繰り返しつつも安定しており、植物はその環境に適応してきました。産業革命以降、大気CO2濃度の激増とそれにともなう温暖化によって、植物はこの100万年間に全く経験しなかった高温・高CO2環境にさらされています。この新たな環境で100億人の食や環境を守るためにはどのような植物を創り出せばよいのかという課題に答えたいと思っています。

一年生草本、シロザの葉の断面図。上から、表皮、柵状組織、海綿状組織、表皮。
二光源照射装置。

※リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ・オキシゲナーゼの略称

寺島先生の本
新・生命科学シリーズ 植物の生態 ーー生理機能を中心に』(裳華房、2013年)
植物生理生態学の基本がわかる一冊。光合成のあらましから陸上植物の進化まで学べます。
 

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