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日本のペットボトルはちゃんとリサイクルできているの?→野田俊也 GX入門/身近な疑問vs東大

掲載日:2023年4月4日

身近な疑問vs東大
GX(Green Transformation)に関係する21の質問にUTokyo教授陣が学問の視点から答えます。他人事にできない質問を足がかりにGXと研究者の世界を覗いてみませんか。

Q.3 日本のペットボトルはちゃんとリサイクルできているの?

ペットボトルの回収率は高いと聞いたけど、集められたものはちゃんと有効利用できてるの?
入札制度にまだ改良の余地あり

回答者/野田俊也
NODA Shunya

経済学研究科 講師・UTMDプロジェクトマネージャー
マーケットデザイン

野田俊也
海外では着色されたものもありますが、日本で作られるペットボトルは全て透明。製造段階から業界団体が細かく設定した規格に従って、リサイクルしやすいように作られています。

世界最高水準のペットボトルリサイクル

家庭から排出されるゴミの約6割(容積比)を占めるのが、ペットボトルを含む容器包装で、このリサイクルを上手く回していくことは循環型社会を実現していく上でとても大事です。日本のペットボトルリサイクルは先進的で、リサイクル率は8割以上と、約4割の欧州や2割弱の米国と比べ、はるかに高い世界最高水準を達成しています。この背景には、製造段階からリサイクルしやすいように業界団体が自主的に設定した厳しい規格や、分別回収と再利用が制度化されている事情があります。これをもっと良くできるのではないかと私たち東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)の研究者が注目したのが、自治体経由で集められるペットボトルの入札制度です。

再生資源の価値を発揮させる入札制度

容器包装リサイクル法が定める廃棄物処理の枠組み(指定法人ルート)
1995年の容リ法制定当初はペットボトルのリサイクル業務委託は逆有償が当然でした。2006年以降は再商品化事業者が有価で引き取る状況になっています。2021年度に有償で落札されたペットボトルの構成比は、上期が76.7%、下期は98.1%でした。

市町村は回収したペットボトルを保管施設に集め、ゴミを取り除いたり潰したりした後、入札でリサイクル事業者に売ります。事業者はそれをペットボトルや卵パック、繊維などに再生します。全国には約800の保管施設がありますが、回収量も、分別基準などで決まる品質もバラバラ。現行の制度では、リサイクル事業者が入札価格を保管施設ごとに誰にも公開しないまま1回だけ提出する「封印入札」で落札者と落札価格を決めます。

入札する時点で落札できるかどうかはわからないので、ふたを開けてみると思ったよりたくさんの保管施設との契約を落札してしまったり、あるいは一つも落札できなかったりということが起きるので、自治体も事業者も困ります。リサイクル事業者の処理能力以上に落札してしまった場合は、いくつかの札が取り消されますが、取り消しのルールにも問題があり、ペットボトルという資源を最も有効活用できる事業者を選ぶ入札制度にはなっていません。

日米欧のペットボトルリサイクル率の推移(分母は販売量)。日本のリサイクル率は80%以上を維持しており、欧州や米国と比べてはるかに高いことが分かります。 出典:PETボトルリサイクル推進協議会(元データ:米国はNAPCOR 欧州はPETCORE、Wood Mackenzie)

UTMDでは昨年3月、この入札制度に関しての提言を作成しました。その一つが、低い価格から始め、徐々に価格を上げていき誰も値段を吊り上げなくなった時点で落札する「競り上げ入札」に変更するというもの。2020年にノーベル経済学賞を受賞したポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンが周波数オークションのために開発した入札制度は、リサイクル市場でも上手く機能し、より公平で効果的に勝者を決められます。再生資源本来の価値が落札価格に反映されることで、自治体にも「高い価格で売れるように、たくさん・きれいに回収しよう」とするインセンティブが働くのではないでしょうか。

私が研究するマーケットデザインは、良い制度を科学的に設計する学問です。最近では、コロナ禍の下でトイレットペーパーの在庫がなぜなくなってしまったのか、どうすれば解決できるのかという分析なども行いました。UTMDの一員として研究するだけではなく、研究成果を実際に社会で生かす社会実装という活動にも取り組んでいます。

UTMDは、理論による制度設計を現実問題に実装する「工学」的な応用を目指し、労働市場、教育・保育、オークション、災害・医療、理論研究の5領域を重点的に扱っています。マッチングアルゴリズムによる自律的キャリア開発、公立高校入試制度の再設計、COVID-19ワクチンの配布計画などの取り組みをこれまでに行ってきました。
 

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