FEATURES

English

印刷

どうして昆虫食が注目されているの?→霜田政美 GX入門/身近な疑問vs東大

掲載日:2023年4月18日

身近な疑問vs東大
GX(Green Transformation)に関係する21の質問にUTokyo教授陣が学問の視点から答えます。他人事にできない質問を足がかりにGXと研究者の世界を覗いてみませんか。

Q.5 どうして昆虫食が注目されているの?

昆虫を使ったせんべいやラーメンなどをお店で見かけます。もう人類は昆虫も食べないと生き残れないんでしょうか…?
家畜の肉より環境負荷が低いから

回答者/霜田政美
SHIMODA Masami

農学生命科学研究科 教授
生産・環境生物学

霜田政美

昆虫食は優秀なタンパク質源で環境負荷も少ない

世界の人口増加に伴い食糧難が深刻化しています。国連の推計によると2022年に80億に達した世界人口は、2058年には100億に達する見通しです。当然農作物も増産しなくてはいけませんが、温暖化がこのまま進んでいけば、旱魃や熱波などの異常気象により収穫量が減少する可能性があります。その不足分を家畜や養殖で賄うには温室効果ガスの発生や水資源の消費などの環境負荷が大きくなります。

そこで注目されているのが昆虫食です。昆虫は人間が生きていくうえで欠かせない動物性タンパク質と脂質を多く含み、家畜よりも飼育に必要な餌や水が少ないため、環境負荷も抑えることができます。欧州ではすでに商業化されていて、コオロギを配合したパンやビスケットなどが一般のスーパーなどで売られています。日本でも最近はコオロギの粉末を混ぜた食品も見られるようになってきました。

昆虫を家畜や養殖魚の餌にする取り組みも広がっています。日本では特に、乱獲で資源枯渇が懸念されているイワシに代わる飼料として期待されています。実際に欧州ではゴミムシダマシ科の幼虫のミールワームが飼料として使われ始めています。

大きな可能性を秘めたミズアブ

この昆虫食の世界で、次に来る大きな波として期待されているのがアメリカミズアブというハエの一種です。ミズアブがすごいのは、腐った野菜や肉も食べるということ。生ゴミだけでなく、究極的には家畜の糞尿も餌にすることができます。腐ったものが食べられない雑食性のコオロギやミールワームと大きく違う点です。食資源回収効率も非常に高く、タンパク質量が数パーセントしかない栄養価の低い餌を与えてもよく成長し、成熟した幼虫を乾燥させると、タンパク質含有率は50~60%。20~30%は脂質です。また、排泄物は消化液や微生物によってよく分解されているので、そのまま植物の肥料になります。家畜の排泄物を微生物を使って堆肥にするには数か月かかりますが、ミズアブはそれを短期間で行います。このミズアブが作った肥料は、植物の耐病性を高めるなどの付加価値があることも分かってきています。

成虫
ハエ目ミズアブ科に属するアメリカミズアブ(Hermetia illucens)の成虫。日本を含む世界各地に生息しています。

成虫が産みつけた白っぽい卵は数日で孵化して幼虫に。
幼虫
幼虫を培養している様子。ウジのような外観で、体長は2cmに達します。写真では餌にオカラを与えています。

処理できないゴミを食べ、ゴミを出さず、飼料や肥料にもなる——究極の食資源循環システムとしてパフォーマンスは素晴らしいです。しかし、実用化にはまだ課題が残されています。欧米ではミズアブを使ったスタートアップがいくつも立ち上がっていますが、ミズアブを大量に育て、それを効率的に処理する技術やシステムがまだ構築されていません。

私の研究室では、飼育の方法やゲノム編集技術などを駆使して、ミズアブの家畜化と育種に取り組んでいます。カイコでは数千年かかったことを5~10年で達成したいと思っていますが、難題が残っていて、今のままだと成功可能性は1%くらいでしょう。この少ない可能性を今後どれだけ大きくできるのか、私たちは日々挑戦しています。

乾燥幼虫
乾燥させた幼虫。良質のタンパク質を含み、養殖魚やペットの餌としてそのまま与えたり、粉末にして家畜のタンパク質源として利用できます。

関連リンク

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる