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どうしてCO2に価格を付けるの?→大橋 弘 GX入門/身近な疑問vs東大

掲載日:2023年5月2日

身近な疑問vs東大
GX(Green Transformation)に関係する21の質問にUTokyo教授陣が学問の視点から答えます。他人事にできない質問を足がかりにGXと研究者の世界を覗いてみませんか。

Q.7 どうしてCO2に価格を付けるの?

排出権取引やGX(グリーントランスフォメーション)に対して政策的な提言を行っている先生に聞いてみよう!
そのままではCO2を制御できないから

回答者/大橋 弘
OHASHI Hiroshi

公共政策大学院 教授
経済政策学

大橋 弘

カーボンプライシングも可視化が命

世界のカーボンプライシング計画導入状況
ETS(Emission Trading Scheme)=排出権取引
CT(Carbon Tax)=炭素税
(World Bank Carbon Pricing Dashboard
https://carbonpricingdashboard.worldbank.org より)

2000年時点ではまだ欧州の一部のみに限られましたが、現在では世界中に広がり、合わせて70件ものCTとETSが導入されています。

CO2濃度は産業革命が始まった19世紀半ば以降、最大値を更新し続けています。産業革命当初は、蒸気機関が地球温暖化につながるとは思いもよらなかったでしょう。放っておくと市場メカニズムが働かない現象を経済学で外部性と呼びます。CO2は地球環境にマイナスの影響を与えるので「負」の外部性です。このような現象を放置しておくと、社会的に望ましい水準を超えたCO2が経済活動のなかで排出されてしまいます。

こうした外部性を市場メカニズムに取り込むツールの一つがカーボンプライシング(CP)です。良く知られている仕組みに炭素税(CT)と排出量取引(ETS)があり、両方ともわが国で導入されています。CTでいえば温対税(地球温暖化対策のための税)であり、ETSは東京都や埼玉県ですでに行われています。しかし、2050年までのカーボンニュートラル(CN)はこのような現状の延長では達成不可能と言われており、さらなる取り組みが不可欠です。

狭い意味でのCPは、炭素量に比例した形での公租公課を指しますが、この場合、日本では300円弱/tCO2と少額のCTしかかかっていません。しかし厳密に炭素量比例ではなくても、省エネルギー法や、エネルギー高度化法、ガソリンに課せられる税など、取り組みの起源は必ずしもCO2を減らすためのものではないですが、わが国にはCO2削減に貢献している制度がたくさんあります。結果として、CO2を追加的に1トン削減するのにかかる費用が世界で最も高い国になっているのです。実際に、最新の試算では、日本は1トンのCO2を減らすためのコストが452米ドルとなっており、世界平均のほぼ10倍に相当しています。

広義のCPを「暗示的」とも言いますが、日本における多くの規制が、数量的な規制であったり、設備要件を課した規制であったりと、必ずしも価格で表現されていないので、CPという尺度で現状の姿を標準化して伝えづらい状況にあります。こうした暗示的なCPを明示的なものにすることで、日本のCPをもっと透明化して海外にきちんと説明していく必要があります。また、国際的な議論を、生産ベースでのCO2排出量から消費ベースでのCO2排出量に換算することで、消費者主権のもとでの持続可能な温暖化対策を真剣に論じるべきですね。

大橋先生の本
『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる・実戦編』
(KADOKAWA、2023年)
「実戦」の場として経済政策を取り上げ現代社会の理解を深める一冊。

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