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どうして気候に正義や不正義があるの?→佐藤 仁 GX入門/身近な疑問vs東大

掲載日:2023年5月9日

身近な疑問vs東大
GX(Green Transformation)に関係する21の質問にUTokyo教授陣が学問の視点から答えます。他人事にできない質問を足がかりにGXと研究者の世界を覗いてみませんか。

Q.8 どうして気候に正義や不正義があるの?

最近よく耳にする「気候正義」。気候って自然現象の話なのに、正義や不正義があるってどういうこと?
環境をめぐる便益と負担に偏りがあるから

回答者/佐藤 仁
SATO Jin

東洋文化研究所 教授
国際開発協力

佐藤 仁

格差や不平等から見る環境問題への新たな視点

東南アジア最大の淡水湖、カンボジアのトンレサップ湖。約100万人が生活しているこの湖に対する保全政策が、地元漁師の生活や漁業資源を悪化させたという報告が増えているそうです。

大洪水や旱魃など、世界各地で極端な気象現象が頻発しています。その気象災害の甚大な被害を受けるのは、往々にして資金やインフラや技術が脆弱な途上国です。気候変動の責任はどこにあるのかと考えると、二酸化炭素を大量に排出してきた、いわゆる工業化が先に進んだ国々にあります。このような現状を途上国の人々が見ると、格差や不平等といった「不正義」があると考えたくなるのではないでしょうか。国際社会もこれを「正義」の問題として取り上げ、先進国は途上国に対して気候変動対策技術や資金などを支援する責任がある、という話になっているのだと思います。

私が研究対象にしてきたのは、気候変動などに関する政策や援助などです。環境保護などの政策は、聞こえがよく素晴らしいと思うかもしれませんが、実際に現地に行ってみると「援助」のオブラートに包まれたより深刻な不正義が潜んでいる場合があります。

私がこのテーマに取り組むきっかけとなったのは、タイの農村でのフィールドワークです。1980年代から90年代にかけて、東南アジアでは熱帯林の焼失が森林や生物多様性の保護政策の大きな課題でした。その対策として、政府は特定の豊かな森を国立公園や野生動物保護区のようなものに指定し、「森を守る」という大義名分をつけることによって人々のサポートを得、強制的にそこの住民を追い出していました。タイでは1960年代に保守的な政府と険悪な関係にあった共産主義勢力が森林地帯に隠れていました。彼らの排除を本当の目的にした森林政策もあります。私は、環境というラベルを貼った見えにくい不正義があると感じ、その後、先進国の発展途上国への援助や政府による資源の管理、そしてコミュニティ開発など、聞こえのいい政策の正体は何かと考えるようになりました。

これまで、地域研究や政治学、また環境学など様々な分野にまたがりながら既存の学問分類に収まりにくいテーマを研究してきました。そのような分かりにくいけれども大事なテーマに取り組む学生が増えてほしいと願っています。

佐藤先生の本
反転する環境国家』(名古屋大学出版会、2019年)
東南アジアや日本の具体的な事例を取り上げ、国家による自然環境の支配が人間社会に何をもたらしたのかを解明する一冊。

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