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動植物の外来種はどうして嫌われるの?→練 春蘭 GX入門/身近な疑問vs東大

掲載日:2023年5月23日

身近な疑問vs東大
GX(Green Transformation)に関係する21の質問にUTokyo教授陣が学問の視点から答えます。他人事にできない質問を足がかりにGXと研究者の世界を覗いてみませんか。

Q.10 動植物の外来種はどうして嫌われるの?

海外から多様な人々が来るのは歓迎されるのに、動植物だと持ち込みが禁止されているものがあるのはなぜ?
生態系バランスを壊す可能性があるから

回答者/練 春蘭
LIAN Chunlan

農学生命科学研究科 教授
森林科学

練 春蘭

生態系を破壊する一番の原因は人間

樹木と外生菌根菌の共生の模式図。菌糸が土壌から吸い上げたリン、窒素、水分などは樹木に送られ、外生菌根菌は樹木の光合成によって作られる炭素化合物を吸収することによって共生しています。

全ての外来種が悪いわけではありませんが、在来種を捕食したり、生育環境を奪ったり、 または遺伝子を汚染してしまうような外来種が持ち込まれると、その地域の生態系のバランスを崩してしまう可能性があります。地球上には3000万種ともいわれる植物、動物、微生物などが、絶妙なバランスを保って生息しています。たとえば道端に咲いている一見何の変哲もない草が、実は生態系の中でとても大切な役割を担っているかもしれないのです。微生物は抗生物質など多くの医薬品の開発にも使われていて、私たちもその恩恵を受けているのです。この生物多様性が失われ、生態系のバランスが崩れると、地球環境に影響し、人類にどのようなことが起こるのか分からないのが怖いところです。

生態系を破壊する一番の原因は人間です。もちろん風によって花粉や種が飛んで行くなど、自然の力で外来種が運ばれることもありますが、人による影響とは比べものになりません。自然を大切にし、できるだけ人間が自然に影響を与えないように気を付けることではないでしょうか。

マツタケが食べられなくなる!?

日本でも様々な外来種が問題になっていますが、その一つがマツに寄生する線虫です。北米原産の線虫ですが、明治時代に日本に入ってきてから現在まで駆除できていない厄介な生物です。この線虫は北米のマツには影響を与えませんが、日本のマツを枯らしてしまうため大きな問題になっています。この線虫被害によって日本のアカマツ林の面積は減少し、アカマツと共生しているマツタケの生産量も激減しています。

樹木は根から養分などを吸収して成長していますが、その養分吸収の多くが根に共生する菌根菌という土壌微生物を介して行われて います。菌根菌にはいくつかの種類があり、アカマツと共生している菌根菌はマツタケなどのキノコの仲間です。私たちが食べている 「キノコ」は、植物でいえば「果実」に相当する部分で、菌の胞子を散布しています。菌根菌は、土の中に樹木の根よりもはるかに細く長い菌糸を伸ばし、根が届かない土の隙間からリンや窒素などの養分を吸収して樹木に送っています。一方で、菌糸は樹木の光合成 によってつくられる炭素化合物を吸収し、成長しています。つまり、樹木と共生しなければ、菌根菌はキノコを形成できず、完全な生 活環(ライフサイクル)が成り立ちません。

私の研究テーマの一つがこの菌根菌ですが、マツタケなどの食用菌根菌のキノコを人工栽培できるようにしたいと考えています。森を人為的に管理することでキノコを増産することはある程度できるのですが、ほとんどの菌根菌は人工栽培に成功していません。ボトルネックがどこにあるのかをゲノム解析などにより解明し、栽培技術の開発に貢献したいと思っています。

ベニタケ(Russula sp.)のキノコ
ベニタケの菌根
マツタケ(Tricholoma matsutake)のキノコ
マツタケの菌根と菌系
ヌメリイグチ(Suillus luteus)のキノコ
ヌメリイグチの菌根と菌系

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