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和食は実は温室効果ガスの排出量が多いってホント?→杉本 南 GX入門/身近な疑問vs東大

掲載日:2023年6月2日

身近な疑問vs東大
GX(Green Transformation)に関係する21の質問にUTokyo教授陣が学問の視点から答えます。他人事にできない質問を足がかりにGXと研究者の世界を覗いてみませんか。

Q.12 和食は実は温室効果ガスの排出量が多いってホント?

和食は洋食よりもヘルシーで環境にもやさしそうだけど、実際はどうなの?
少ないとは言えないかも

回答者/杉本 南
SUGIMOTO Minami

未来ビジョン研究センター 特任助教
栄養疫学

杉本 南

健康的な食事と環境への優しさは一致しない

日本人計369人の食事データをGHGEによって4群に分け、その内容を調べたところ、食事由来のGHGEが多いほど栄養学的に不適切な食事をしている人の割合が低いことが示されました(ナトリウムを除く)。

和食の定義が難しいところですが、今の日本人が食べている食事を一括りに「和食」とすると、欧米人の食事と比べて食事由来の温室効果ガス排出量(GHGE)に大きな差はありません。そして、この「和食」の内容を調べたところ、GHGEが多い食事ほど健康的な傾向があることが分かりました。これは、栄養学的な食事の質が高いほどGHGEが少ない欧米での研究とは逆の結果です。

この違いは、欧米と日本とで食習慣が異なるためと考えられます。欧米における不健康な食事は、環境負荷の大きい肉などの動物性食品が多い傾向があります。しかし日本では、不健康な食事は米や麺、パンなどの炭水化物が中心である一方、健康的な食事では炭水化物はほどほどで、野菜や肉や魚をバランスよく含むため、健康的な食事の方が、相対的に環境負荷が大きくなってしまうのです。

国際連合食糧農業機構(FAO)によると、世界のGHGEの約3分の1は食品生産や流通によるもの。地球温暖化防止のためには、食品の生産段階でGHGEを削減するだけではなく、私たちの食生活を変えることも必要です。では、環境負荷を減らし、健康的で、費用負担も少なく、食習慣の変化ができるだけ少ない最適な食べ方は何か?

約400人の成人男女の食事データを詳細に分析して分かったのは、日本人は全粒穀類の摂取が非常に少なく、増やす必要があるということです。たとえば白米に玄米を混ぜたり、パンを全粒粉に変えたりすることで、全粒穀類の摂取量を3~5倍に増やすことが望ましいです。また、飼料効率が悪く環境負荷が大きい牛肉や豚肉の量を2~3割減らすことも必要です。そして日本人の食生活のなかで一番死因への寄与が大きい食塩の摂取も減らすことも重要です。私たちの研究では、食生活を改善することによってGHGEを約10%減少できることが示されました。

食習慣と健康の関係を研究する栄養疫学は、日常生活と研究課題が近いのが面白いところ。最近では環境にも健康にも優しい食品の選び方や買い方について研究しています。 たとえば、食品を購入した1ヶ月分のレシートをもとに、今月の買い物を環境面と健康面から点数をつけ、同時に改善策もアドバイスできるような仕組みを作りたいと考えています。

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