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「新しい生活様式」でCO2は減ったの?増えたの? アレクサンドロス・ガスパラトス GX入門/身近な疑問vs東大

掲載日:2023年6月13日

身近な疑問vs東大
GX(Green Transformation)に関係する21の質問にUTokyo教授陣が学問の視点から答えます。他人事にできない質問を足がかりにGXと研究者の世界を覗いてみませんか。

Q.14 「新しい生活様式」でCO2は減ったの?増えたの?

コロナ禍の下でがらりと変わったライフスタイル。環境への影響はどうだったの?
期待された変化は見られなかった

回答者/アレクサンドロス・ガスパラトス
GASPARATOS Alexandros

未来ビジョン研究センター 准教授
生態経済学

アレクサンドロス・ガスパラトス

巣ごもり生活は必ずしも環境にプラスに働かず

めん棒で生地を作るナイロビの女性。
めん棒で生地を作るナイロビの女性。ガスパラトス先生は持続可能性と都市化の問題にも携わり、ケニアやガーナにおける食生活の変化を調べてきました。

新型コロナウイルスが拡大し始めた2020年に私たちのライフスタイルは劇的に変化しました。日本では4月に緊急事態宣言が発令され、多くの人が外出を控えるようになり、リモートワークが拡大しました。このような前例のない急激な消費行動の変化は、自然環境にも影響したのではないかと考え、工学系研究科の龍吟助教らとともに日本の家庭消費に由来する温室効果ガス排出量を分析したところ、コロナ禍以前と比べて大きな変化はありませんでした。私たちが比較したのは、2020年1月~5月と2015年~2019年の同時期です。野菜や魚などの食品から、衣料品、交通費、電気代に至るまで、約500の消費品目について、それぞれの製品やサービスのライフサイクルを通した温室効果ガス排出量(カーボンフットプリント)を推計しました。

詳細を見ると、緊急事態宣言発令中には外出を自粛したことにより、外食や服、エンターテインメントなどの消費に伴って排出されたカーボンフットプリントは大幅に減少していました。一方で、巣ごもり需要により増加したのが、加工食品や肉類、そしてアルコールや乳製品などほぼ全ての食品カテゴリーです。電気やガスなどはおおむね同等レベル。つまり、パンデミックは日常生活に混乱をもたらしたと同時に、私たちの消費パターンも変え、それによってカーボンフットプリントが減少したものと増加したもののトレードオフが生じました。これらの変化は相殺され、全体としてはコロナ禍前と比較して大きな変化はありませんでした。何をどのように消費するかを考えずに、単に日々の活動量を減らすことが環境負荷を減らすことにつながるわけではないということです。消費習慣をどのように変えていかなくてはいけないのか、ということについての教育が重要だと思います。これは日本政府が掲げる脱炭素社会を実現するうえでも大事な点です。

私の専門の生態経済学は、人間の活動が生態系に、そして生態系の変化が社会や経済に及ぼす影響を分析する学問です。現在取り組んでいる研究の一つが、自然と人間のウェルビーイング(心身の健康や幸福)の関係です。公園や植物園などの自然が、美しい景色やウォーキングの経験など、定量化しにくい私たちのウェルビーイングの向上に貢献しているかということを理解したいと考えています。研究をとおして世界をよりよく理解し、何がうまくいっていて、そうでないのかを見極めることで社会に貢献できればと思います。

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