GX(Green Transformation)に関係する21の質問にUTokyo教授陣が学問の視点から答えます。他人事にできない質問を足がかりにGXと研究者の世界を覗いてみませんか。
Q.17 長い目で見れば地球は寒冷化するってホント?
そろそろ氷期が来ると聞いたのですが、だとすると温暖化は心配しなくていいのでは?回答者/木野佳音
KINO Kanon
工学系研究科 助教
古気候学
温暖な間氷期はあと数万年続く
過去100万年の間、天文学的な要因(地球の公転軌道の離心率や自転軸の傾き、自転軸の歳差運動の準周期的な変化)により地球上の日射量分布が変化することで、寒冷な氷期と温暖な間氷期が数万年単位で繰り返されてきました。現在は、後者の間氷期にあたります。間氷期の長さは時代によって異なりますが、約1万年前に始まった今の間氷期においては、将来の日射量変化のみを考慮した場合で3~5万年続くとされています (Archer and Ganopolski, 2005)。
人間活動による二酸化炭素 (CO2) などの温室効果ガス排出は、間氷期の長さに大きな影響を与えます。氷期と間氷期が繰り返される間に大気中のCO2濃度 (以下、単にCO2) がどのように変化してきたか、南極の氷床コア(図1)から知ることができます。氷期と間氷期が繰り返される間、CO2はおよそ180から280 ppmの間で推移してきました(図2)。それが、直近100年余りの間に人間活動によって急激に増加し、2022年には約416 ppmに達しました。このCO2の増加は、今の間氷期をさらに長引かせることが分かっています。つまり、地球の寒冷化は当面起こらないと考えてよいでしょう。
過去は将来を解く鍵
将来の気候変動予測にあたっては、世界中の気候モデルによるシミュレーションが精力的に行われていますが、それらの将来予測はどの程度確からしいのでしょうか。タイムマシンに乗って21世紀末の気候がどれくらい暖かくなっているか、確かめることは残念ながらできません。一方で、過去の気候がどのような状態だったかについては、タイムマシンに乗らずとも、間接的な方法で調べることができます。たとえば南極の氷床コアは、図2で示したCO2の他にも、さまざまな過去の気候に関する情報を教えてくれます。中でも、水の安定同位体には、気温が低いほど重い同位体の存在比率 (水同位体比) が減るという特徴があり (図1)、水同位体比は気温の変化傾向の情報を含みます。そこで、氷床コアが記録した過去の水同位体比変動から推定される気温変動を気候モデルによって再現できれば、気候モデルによる将来予測の信頼性を高めることにつながります。
この場合の課題は、氷床コア中の水同位体比変動から実際の気温変動をどのように推定すればよいかです。従来の研究では、水同位体比と気温の換算には経験的な手法や簡便な1次元理論モデルが使用されてきました。一方、私が行っている研究では、実際に将来の気候変動予測に使われている気候モデルの中でも、地球上の大気の水の輸送に伴う水同位体の挙動を直接計算できるモデルを使って、過去の気候をシミュレートしています。これにより、偏西風や低気圧・高気圧といった気象要素が、南極に降る雪の水同位体比と気温の関係にとって重要であることがわかってきました。今後は、南極氷床コアや世界中の過去の気候復元を利用しながら、気候モデルの評価を進めていく予定です。