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問題行動の解決を通じて犬と人が共に暮らしやすい社会へ|山田良子 犬にまつわる東大の研究(2)

掲載日:2023年10月24日

犬にまつわる東大の研究

犬にまつわる東大の研究

獣医外科学、動物行動学、ロボット工学、
考古学、年代測定学、法学・動物介在学、
獣医疫学、古典文学、現代文学。

9分野の先生に、犬にまつわる研究について紹介してもらいました。

犬と動物行動学

問題行動の解決を通じて犬と人が共に暮らしやすい社会へ

山田良子
YAMADA Ryoko

農学生命科学研究科助教

山田良子

人に咬みつく、留守番させると吠え続ける——犬を飼っているとさまざまな「問題行動」に悩まされることがあります。山田先生が所属する獣医動物行動学研究室別ウィンドウで開く動物医療センター行動診療科別ウィンドウで開くでは、犬の問題行動の研究と治療に取り組んでいます。

柴犬では尾の自傷行動が多い

唸る・咬むなどの攻撃行動や、自分の身体を噛んで傷つける自傷行動、落ち着いて留守番できずに吠えたり粗相したりする分離不安など、人間と共に暮らす上で支障となる犬の行動は「問題行動」と称されます。問題行動が深刻化すると犬の健康が損なわれるだけでなく、人と共に暮らし続けることが難しくなり飼育放棄や安楽死に至る場合もあります。このように、問題行動は獣医学的観点のみならず福祉的観点からも看過できないテーマです。

犬には数百の犬種が存在し、起こりやすい問題行動には犬種差があります。日本の犬約2,000頭を対象とした問題行動の調査では、日本で飼育頭数が多い柴犬、トイプードル、ミニチュアダックスフンド、チワワの4犬種はそれぞれ異なる行動を発現しやすいことが明らかになりました。柴犬は尾の自傷行動や家族に対する攻撃行動、トイプードルは物音に対する吠え、ミニチュアダックスフンドは分離不安や馴染みのない人に対する恐怖、チワワは来客への吠えや馴染みのない人に対する攻撃行動の発現率が他の犬種より高く、犬種に応じた問題行動の予防や対処が必要と考えられました。問題行動には環境要因と遺伝要因の両方が関与しますが、特定の犬種で起こりやすい問題行動では遺伝要因の寄与が大きいと推察されます。獣医動物行動学研究室では柴犬に着目して問題行動の背景にある遺伝要因の解析を行っています。 

柴犬
柴犬は日本で飼育頭数が多い人気犬種で、日本の天然記念物です。しかし、尾の自傷行動や攻撃行動といった問題行動が他の犬種より起こりやすい、行動診療科来院の“常連さん”犬種でもあります。問題行動の研究は、柴犬を守り柴犬と人が共により暮らしやすい社会を築く鍵の一つかもしれません。
動物医療センター
動物医療センターの入口には獣医学を日本に伝えたヨハネス・ルードヴィヒ・ヤンソン博士像が。

研究と診療の両輪で

農学生命科学研究科附属動物医療センターには行動診療科が存在し、そこで研究の傍ら獣医師として問題行動の診療も行っています。来院理由として最も多いのは唸る・咬むといった攻撃行動で、全体の6割を占めます。行動診療では問題となっている行動が起きる状況やきっかけ、その時の犬の様子や姿勢、飼い主さんの対応、生活環境などを丁寧に聴取し、必要に応じて血液検査やレントゲン、MRIなどの検査も行い問題行動の原因を明らかにします。問題となっている行動が恐怖や不安、縄張りや捕食など行動学的理由に起因するのか、疼痛を伴う怪我や病気、脳神経系疾患などの身体的疾患に起因するのかを鑑別し、原因に応じて治療を進めます。

問題行動の治療は行動修正法、薬物療法、外科療法により行われます。行動修正法は動物の学習原理に基づき考案された不適切な行動を望ましい行動に変化させる手法で、治療の主軸です。薬物療法にはセロトニンなどの神経伝達物質を調整する薬を用います。ホルモンが関係する行動には去勢や避妊などの外科療法を併用する場合もあります。

研究と診療の両輪で問題行動に向き合えるのは大学ならではの良さだと思います。問題行動の背景を明らかにすることは、問題行動に悩む飼い主さんの希望となる効果的な治療法の発展にも繋がります。問題行動の解決を通じて、犬と人のより良い関係の構築に貢献したいと考えています。

薬
問題行動の治療は行動療法が主体となりますが、薬物療法を併用することもあります。症状に応じて薬を選択し、飼い主さんの同意を得て使用します。
犬のゲノム解析
犬の問題行動の背景にある遺伝要因を調べるため、獣医動物行動学研究室では犬のゲノム解析を行っています。

犬まっしぐら!?「ちゅ~る広場」

山田先生が診療する動物医療センターの2階にあるベランダは、訪問者の休憩や来院する動物の飲食のために利用されています。大学が公募したネーミングプランにいなばペットフード株式会社が協賛し、「ちゅ~る広場」と命名されました。

期間は2023年1月~2027年12月。多くの方々の寄付によって東大の教育・研究は支えられています。

動物医療センター未来基金(VMC基金)
約30年前に建てられたベランダは経年劣化や水流による腐食や変色が目立ちましたが、VMC基金により、床に緑のウレタン防水塗装を施し、足洗い場を改装。木製のルーバーやベンチも置いて憩いの場になりました。

ちゅ~る広場

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