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炭素の放射性同位体で狛犬の年代を推定|横山祐典 犬にまつわる東大の研究(5)

掲載日:2023年11月14日

犬にまつわる東大の研究

犬にまつわる東大の研究

獣医外科学、動物行動学、ロボット工学、
考古学、年代測定学、法学・動物介在学、
獣医疫学、古典文学、現代文学。

9分野の先生に、犬にまつわる研究について紹介してもらいました。

犬と年代測定学

炭素の放射性同位体で狛犬の年代を推定

横山祐典
YOKOYAMA Yusuke

大気海洋研究所教授

横山祐典

加速器質量分析装置を使って過去の気候や海洋の変遷を研究してきた横山先生。
フィールドワークを通して得た縁が、文化財の年代測定という新しい取り組みにつながりました。

地球化学の手法を古い木製像に応用

私は過去200万年間の気候や海洋環境の変遷を地球化学的手法で研究してきました。この手法で鍵となるのが同位体で、特に炭素14という放射性同位体に着目しています。試料が古いほど含まれる炭素14の濃度は下がります。炭素14の大気中の濃度変遷と試料内の濃度を加速器質量分析装置(AMS)を用いて比べれば、試料の年代がわかるのです。また、大気中の炭素14を海が吸収する際の様子が場所により違うため、海の生物がどこで生まれ育ったのかも推定できます。

これまでの研究では、喜界島沖で400歳超の巨大サンゴを見つけたり、スケトウダラの耳石から北海道の資源管理の要点を導いたり、山中湖の堆積物から未知の富士山噴火活動を発見したり。インダス文明の遺跡から出土したナマズの耳石を調べ、4000年前に2歳半の個体が海で浮上して捕まったと突き止めたこともあります。秋田県男鹿半島では、湖の堆積物から昔の気候を調べました。そこで知り合った男鹿市教育委員会の人から、地元の赤神神社にある古い狛犬像の年代測定の相談を受けました。石像だと炭素14の測定ができませんが、珍しい木製の狛犬だと聞いて引き受けたんです。

赤神神社所蔵の狛犬像(吽形)と獅子像(阿形)
赤神神社所蔵の狛犬像(吽形)と獅子像(阿形)。

2015年、神主の立ち合いのもと、ごく微量な試料をメスで削ぎ出しました。ウィグルマッチング(Wiggle Matching)という方法で暦年較正の精度を高めるため、木を10~20年輪ごとに削ぎ、AMSにかけた結果、木材は6~11世紀のものと判明しました。彫刻した年代ではないですが、木材を何百年も置いてから使うことは普通考えられず、狛犬は西暦860年とされる神社創建時に迫る資料である可能性があります。編年学的検討が困難だった木造狛犬像に定量的な年代測定結果を与えることで、文化財保護が進むことが期待されます。大陸から伝来し、奈良や京都に入ったはずの狛犬がなぜ秋田にあるのか。流通経路が当時から整備されていたのか、実は男鹿が大陸との交易場所の一つだったのか……。想像を刺激する調査となりました。

こうした探求の醍醐味を伝えたくて、地域と協働する教育拠点プロジェクト「海と希望の学校 in 奄美」を率いています。奄美のハブの年齢を測定する研究にも炭素14が使えるのではないかと期待しています。

小型AMS
大気海洋研究所加速器実験棟にある小型AMS。
年代測定の試料
シャーペンの芯先程度の微量な試料があれば測定可。クジラの鰭やヒトの歯も年代測定の試料になります。

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