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受刑者の更生につながる子犬の育成プログラム|加藤淳子 犬にまつわる東大の研究(6)

掲載日:2023年11月21日

犬にまつわる東大の研究

犬にまつわる東大の研究

獣医外科学、動物行動学、ロボット工学、
考古学、年代測定学、法学・動物介在学、
獣医疫学、古典文学、現代文学。

9分野の先生に、犬にまつわる研究について紹介してもらいました。

犬と法学・動物介在学

受刑者の更生につながる子犬の育成プログラム

加藤淳子
KATO Junko

法学政治学研究科教授

加藤淳子

文理融合研究の社会実装を目指す法学政治学研究科附属先端融合分野研究支援センター。
研究の一つ、刑務所の子犬育成プログラムの効果検証について、担当の加藤先生に聞きました。

愛情ホルモン「オキシトシン」がカギ?

欧米の矯正施設などで広く行われている犬のトレーニングプログラム。受刑者が犬を訓練することが、その後の社会復帰や再犯防止に役立つということが報告されています。犬と触れ合うことで、自己肯定感や責任感が向上したりといった効果があるとされていますが、それはなぜなのか。科学的根拠はいまだ明らかになっていません。

このメカニズムとして私たちが注目したのが、愛情ホルモンとして知られるオキシトシンです。授乳の際などに母子両方から分泌が促進される、親子の絆を形成するうえで重要なホルモンで、社会行動にも関係すると言われていますが、犬とその飼い主が見つめ合うことでも分泌されることが確認されています。この研究を行った麻布大学獣医学部の菊水健史教授別ウィンドウで開くと共同で、島根あさひ社会復帰促進センター別ウィンドウで開くという官民協働の刑務所で、受刑者が盲導犬候補の子犬を育成するプログラムを対象に研究を行っています。研究科の先端融合分野研究支援センターの研究の一つで、太田勝造名誉教授や齋藤宙治社会科学研究所准教授ら、法学者が参画しています。

盲導犬
島根あさひ社会復帰促進センターでは、盲導犬になるために繁殖された子犬を受刑者が育成しています。犬たちは平日はセンターで過ごし、週末は一般家庭に預けられます。
写真提供:島根あさひ社会復帰促進センター・日本盲導犬協会
盲導犬
2009年に開始したこのプログラム。これまで74頭を育成し、その後、訓練を経て18頭が盲導犬になりました(2023年5月8日現在)。
写真提供:島根あさひ社会復帰促進センター・日本盲導犬協会

この「盲導犬パピー育成プログラム」に参加するのは、一定の選定基準を満たし、かつ自ら希望した受刑者。おおむね生後4~5か月の子犬を、盲導犬になるための訓練が始まる1歳程度まで飼育します。この時期の子犬は、とにかく愛情をもって育て、人間への信頼を醸成することが大切だとされています。1匹の子犬を4~5人の受刑者が2週間ずつ交代で世話をします。24時間一緒です。菊水先生によると、寝るときも一緒にいることで信頼関係がより深まるそうです。このプログラム参加前後に受刑者に社会性や心理的態度を計測できるような質問を行い、尿に排出されるオキシトシンの量などを調べています。2019年3月~2022年9月まで、3期分のデータを現在分析中です。

私の専門は政治学。人間相手の学問ですが、行動や制度の観察だけで分かることには限界があるとの思いからMRIを使った脳の研究などにも取り組んできました。人間は知れば知るほど興味深い存在。感情や衝動、論理的思考や合理性も外からの観察だけではわかりません。文理融合研究で、さらに人間のことをよく知りたいと思っています。

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