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狂犬病が日本に侵入するリスクを評価|杉浦勝明 犬にまつわる東大の研究(7)

掲載日:2023年11月28日

犬にまつわる東大の研究

犬にまつわる東大の研究

獣医外科学、動物行動学、ロボット工学、
考古学、年代測定学、法学・動物介在学、
獣医疫学、古典文学、現代文学。

9分野の先生に、犬にまつわる研究について紹介してもらいました。

犬と獣医疫学

狂犬病が日本に侵入するリスクを評価

杉浦勝明
SUGIURA Katsuaki

農学生命科学研究科特任教授

杉浦勝明

海外でウイルスに感染した動物が貨物コンテナに迷入することで狂犬病が国内に侵入する可能性が指摘されてきました。
杉浦先生が侵入リスクを計算した結果は、果たして?

コンテナ迷入動物が持ち込む36万年に1度

日本は世界でも数少ない狂犬病清浄国です。人獣共通感染症である狂犬病が国内で最後に発生したのは1957年(猫の例)。清浄化の原動力となったのが、1950年に制定された狂犬病予防法よって義務化されたワクチン接種と集中的に行われた放浪犬の捕獲でした。日本ではいまでも年1回のワクチン接種が義務化されていますが、実際に狂犬病が日本に侵入するリスクはどのくらいなのか?さまざまなシナリオを定量的に評価したところ、いずれも極めて低い確率でした。

日本における狂犬病の状況

死亡者数 犬の発生数
1953年 3人 176頭
1954年 1人 98頭
1955年 0人 23頭
1956年 1人 6頭
1970年 1人 発生なし
2006年 2人 発生なし
2020年 1人 発生なし
厚生労働省のホームページ別ウィンドウで開くより)
1970年以降は、外国で犬に咬まれた後に日本で発病し、死亡した輸入感染事例です。

例えば日本に到着する国際貨物コンテナに迷入した野生動物。食べ物がない状態でも5日間くらいなら生存できるため、コンテナ数も多く距離も近い東南アジアなどから持ち込まれる可能性が考えられます。そこで、迷入動物の狂犬病感染の有無、到着時の生存、コンテナ開封時の逃走などの確率を評価したところ、狂犬病ウイルスが日本に持ち込まれる確率は36万年に1度でした。仮に迷入動物全てが開封時に逃走したとしても、その確率は7万年に1回。また日本は毎年約8000頭の犬、猫を輸入していますが、2回以上のワクチン接種や抗体検査、個体識別のためのマイクロチップ埋め込みなどの厳しい検疫規則が遵守されているかぎり、そこから狂犬病ウイルスが侵入する確率は5万年に1回です。ただし、虚偽申請などが行われるとリスクはぐんと上がるため、そこを見抜けるような家畜防疫官の訓練が重要です。

狂犬病が侵入するリスクが低い中、年1回のワクチン接種が適切なのかを考える材料として、抗体価を調べたところ、接種間隔を2~3年に広げても効果が持続する可能性が高いという結果でした。狂犬病の主な媒介動物は犬、そして野生動物ですが、同じ種の中で何代か継代しないと定着しないという「種の壁」があるため、異なる種には簡単には広がらないことが分かっています。とはいえ発症した場合の致死率はほぼ100%で、世界保健機関(WHO)の推定によると世界では毎年59,000人が狂犬病で亡くなっています。狂犬病に感染しているか不明な犬に噛まれた場合、事後的に1か月に複数回ワクチンを接種することで発症を予防できると知っておくことも大切です。

狂犬病清浄国・地域と狂犬病媒介動物

狂犬病清浄国・地域と狂犬病媒介動物
狂犬病が発生していない国と地域は日本のほかに、アイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアム。狂犬病の媒介動物はアジアでは犬ですが、世界の他の地域をみるとキツネやコウモリ、そしてオオカミやアライグマなど多くの野生動物が媒介となってウイルスに感染します。
出典:農林水産省、厚生労働省

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