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下水中の遺伝子解析で感染症流行を予測する|風間しのぶ 東大の排泄関連研究(4)

掲載日:2024年4月23日

下水に含まれるヒト腸管系ウイルスのゲノム解析研究に取り組んできた風間先生。
将来的に脅威になる可能性のある新規病原ウイルスを検出する試みや、途上国の水環境などについて紹介してもらいました。

下水疫学×排泄物

下水中の遺伝子解析で感染症流行を予測する

風間しのぶ
KAZAMA Shinobu

新領域創成科学研究科 准教授

風間しのぶ

家庭排水は病原微生物情報の宝庫

人の糞便を含む家庭から出る排水は、病原微生物情報の宝庫です。最終的に下水処理場にたどり着くその排水を採取して、下水の疫学調査に取り組んできました。下水中には胃腸炎の原因になるノロウイルスをはじめとする様々なヒト腸管系ウイルスが在ります。その多様なウイルスを検出するため、次世代シークエンサーを使って複数のウイルスの塩基配列を同時に解読しました。結果は私たちがターゲットにしているヒト腸管系ウイルスはほんのわずかで、多くが大腸菌や植物に感染するウイルスでした。腸管系ウイルスが検出される確率は低いということです。

そこでヒト腸管系ウイルスの遺伝子が有する特徴を利用して選択的に検出する手法を使うことで、効率的に腸管系ウイルスを検出することができました。また、その他の検出されたゲノムを解析したところ、その62%が遺伝子配列データベースに登録されていない塩基配列でした。未知のウイルスである可能性があるということです。国際ウイルス分類委員会に登録されているウイルスは9000種以上。それ以外に地球上の未発見ウイルスは哺乳類に感染するウイルスだけでも32万種存在すると推定されています。その一種が含まれているかもしれません。このような遺伝子データを積み上げていくことで、今後起こりうる感染症に役立てられないかと考えています。

下水を使ってノロウイルス感染者数や、その割合を示す流行指標の開発にも取り組んでいます。しかし下水に含まれる雨水や工場排水量などは地域によって異なり、ウイルス濃度だけではそのような流行状況を推定することが難しいといった課題があります。その補正方法を考えているところです。指標を開発できれば、それに基づいて感染症警報を発出できるようになります。下水処理場でのウイルス除去には限界があります。除去できなかったウイルスが河川に排出され、海に入り、二枚貝に蓄積され、再び人体に取り込まれるという感染サイクルの脅威減少にも役立つと考えています。

下水処理場で下水を採取する様子
下水処理場で下水を採取する様子。サンプリングした下水をゲノム解析し、既知・未知ウイルスの検出などを行っています。

インドネシアの水環境を改善する

発展途上国の水環境改善を担う留学生を受け入れ、修士論文の指導も行ってきました。その1つがインドネシアのジョグジャカルタ特別州の糞便汚染調査です。5割以上の住民が地下水を飲料水源として利用している地域です。各家庭には井戸があり、その近くに穴を掘った簡易なトイレが設置されています。そこから屎尿が土壌へ浸透し、病原微生物などが地下水を汚染してしまいます。インドネシアでは下痢は日常的な症状で、地下水糞便汚染防止策が求められています。

簡易下水道などの整備も進められていますが、大腸菌汚染の残存や、普及率の低さといった課題があります。地下水試料の一部からは、トリ由来の糞便汚染も検出されました。鶏を飼っている家庭が多いため、井戸に蓋をするなど、環境自体も改善する必要があります。今後は下水や環境中のウイルスに関する研究だけでなく、途上国の水環境改善につながる研究にも取り組んでいけたらと考えています。images

インドネシアのジョグジャカルタ特別州の家庭に設置されている井戸
インドネシアのジョグジャカルタ特別州の家庭に設置されている井戸。そのすぐ近くにトイレが設置されています。
2022年夏にジョグジャカルタ特別州で行ったフィールドワークの様子
2022年夏にジョグジャカルタ特別州で行ったフィールドワーク。現地では地下水のサンプリングや住民へのヒアリングなど、水環境に関する調査をしました。

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