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尿中の脂質でアレルギー疾患を診断する|村田幸久 東大の排泄関連研究(8)

掲載日:2024年5月21日

食を含む生活環境が変化する中で増え続けるアレルギー性疾患を、尿を使って正確に診断することに取り組む村田先生。
誰でも苦痛なく、家庭や病院で気軽に診断できる検査キットの開発などの取り組みを紹介してもらいました。

アレルギー免疫×尿

尿中の脂質でアレルギー疾患を診断する

村田幸久
MURATA Takahisa

農学生命科学研究科 准教授

村田幸久

湿疹やかゆみを繰り返し、生活の質を低下させるアトピー性皮膚炎。乳幼児期に発症することが多く、その患者数は近年増加しています。症状をコントロールする上で大切なのは、皮膚の炎症の面積や深さを把握し、適切な治療をすること。しかし目視での正確な判断は難しく、乳幼児の場合、症状を聞き取ることもできません。そこで、尿を使って皮膚の炎症の質や程度を評価できるバイオマーカーの開発に取り組んでいます。

食物アレルギーの尿中バイオマーカーとなるProstaglandin D metabolite
食物アレルギーの尿中バイオマーカーとなるProstaglandin D metabolite

尿中の代謝物を皮膚炎のマーカーに

PGDMの有用性とキット開発の必要性の表
PGDMの有用性とキット開発の必要性
IgEテストは採血してIgE抗体という物質を測定するもの。プリックテストは細い針で抗原を少量入れて現れる反応を見るもの。各々のやり方に長所と短所があります。

私たちが注目したのは、尿中に排泄される脂質代謝物。体の中には数千種類もの脂質とその代謝物があると言われており、それらが大量に作られては生理活性を発揮し、排泄されていきます。この中から、アトピー皮膚炎が発症しているときに作られて、尿に排泄される安定的な代謝物を見つければ、皮膚の炎症を評価できるバイオマーカーとして使えると考えました。

質量分析装置を使ってアトピー性皮膚炎のモデル動物や患者の尿を分析したところ、プロスタグランジンという物質の脂質代謝産物の濃度が症状の悪化に伴って増加していることが分かりました。血圧や炎症などの調節で重要な働きをするプロスタグランジン。これが炎症を起こしている皮膚の上皮細胞で生産され、その代謝産物が尿中に溜まります。その濃度を測定することで皮膚の炎症状態を評価できる技術を開発したいと考えています。

アトピー性皮膚炎の指標となるバイオマーカーはいくつか存在しますが、いずれも採血が必要です。倫理的な観点から、ヨーロッパでは乳幼児からの採血は容易にできなくなっていますが、尿なら肉体的にも精神的にも苦痛なくいつでも採取することができます。

アトピーが発症のリスクになる

実用化に向けて開発中の食物アレルギーを調べる検査キット
実用化に向けて開発中の食物アレルギーを調べる検査キット。アレルギーの原因となる肥満細胞が放出する「プロスタグランジン」という物質が代謝された後、尿に排泄される脂質代謝物「PGDM」(prostaglandin D metabolite)を検出します。

もともと私は食物アレルギーの研究をしていました。食物アレルギーの唯一の確定診断法は、医師の前でアレルギーの原因の疑いがある食物を少しずつ食べ、症状が現れるかを判定する「経口抗原負荷試験」です。この検査にはアナフィラキシーを起こすリスクが伴い、体制が整った病院でしか行えないという課題があります。また治療には、症状が出ない量の抗原食物を毎日食べ続け、少しずつ量を増やしながら克服していく「経口免疫療法」がありますが、その効果をモニタリングできる数値指標はありません。尿を使って、安全に家庭でも食物アレルギーを検査でき、数値指標として使えるものを作りたいとの思いから、尿中の脂質解析に取り組み始めたのが約8年前。現在、実用化に向けた尿検査キットを開発しています。

この研究をする中で分かったのが、アトピー性皮膚炎などで起こる子供の皮膚の荒れが、食物アレルギーの引き金になるということ。枕や絨毯などに付着し、住環境中に漂っている小麦などのアレルゲンは、ダメージを受けた皮膚から体内に侵入してしまいます。そして抗体がつくられて食物アレルギーの発症につながります。アトピーでも同様の尿検査キットを開発して、両方をモニタリングすることで、免疫反応をコントロールしてアレルギーの患者を減らす方法の確立を目指しています。将来的には、おむつで脂質代謝物を検出できるようにしてアレルギーの状態が分かるようにしたいと考えています。images

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