現代の大学のトイレはどうなっているのか。東大キャンパスのトイレ事情を紹介します。
駒場では男子トイレにも生理用品が用意されているってご存じでしたか?
学生の声を取り入れ、駒場キャンパスで取り組みが始まった男性トイレでの生理用品無償配布。
変化する学生の意識や、D&I関連授業の拡大などについて、インクルーシブキャンパスの実現に取り組んできた清水先生に聞きました。
キャンパス×排泄
全ての人が安心して利用できるトイレの実現へ
清水晶子
SHIMIZU Akiko
総合文化研究科 教授

ここ数十年で様変わりした東大キャンパスのトイレ事情。女性用トイレが増えたり、多目的トイレが設置されたり、多機能なトイレが増えたり……。その中でも最近注目を集めたのが、駒場キャンパスでの生理用品無償配布の取り組みです。



五月祭の討論がきっかけに
きっかけとなったのは、2022年の五月祭で開催されたジェンダーに関する公開討論。経済的な理由などから生理用品を購入できない「生理の貧困」への取り組みが世界的に増えるなか、討論会で問題提起されたのが、キャンパスのトイレに生理用品が設置されていないことでした。
当時、教養学部副学部長だった清水晶子先生はその場で検討することを約束。同時期に独自に配布を検討していた教養学部学生自治会には、持病やお腹の具合が悪いときなど男性も生理用品があると助かるという学生からの声も届いていました。そこで、自治会と協働し、教養学部が女子トイレと多目的トイレ、自治会は教養学部が設置していない女子トイレ及び男性トイレに生理用品を試験的に配布し始めたと清水先生は説明します。

2022年に生まれたKYOSS(教育学部セイファー・スペース)


生産技術研究所では2019年にパウダースペースを併設したユニバーサルトイレを設置しました。

実験で化学物質を扱うことがある施設のトイレには、非常時のためにシャワーが設置されています。
「世代が変わったんだなと感じました。昔から需要はあったと思いますが、一人一人がそれを口にするようになり、そういう学生が東大の中にも出てきたということ。そしてそれが一人だけではなく、一定の同意や共感といった形で広がっているんだという印象を持ちました」
この取り組みは好評で、女子学生からは生理用品が目に入ることで男性の意識も変わるのではという声もあったそうです。コスト面でも賄えるとの判断から、2023年度からは教養学部が主体となって生理用品を無償配布しています。他にも、建て替えや改修工事をする際にはオールジェンダートイレを設置してほしいと、複数の学生団体が連名で要望書を提出してきました。「実現のために学生たちの中で連携し、話を進めているんだなという感触がありました。それはすごいなと思っています」
また、学生の声を受け、2024年度から三鷹国際学生宿舎の一部はジェンダー中立的なフロアになる予定です。

入試の際に多くの受験生のために設置される仮設トイレ。駒場では駒猫のミレ(♀)がパトロールしていました(撮影:永井久美子先生)。

「東大マーク(旧)」と呼ばれる銀杏印が印刷された便器もたまにあります。

教養学部が取り組むD&Iの実現
フェミニズム/クィア理論を研究する清水先生は、教養教育高度化機構のD&I部門長としてもキャンパスの環境や授業の整備などに尽力してきました。その一つが教養学部前期課程のD&I関連授業の拡大です。2023年度には法やセクシュアリティ理論など計12コマの講義と演習を開講しました。
「D&Iに関する国内外の流れや議論について知らずに社会に出てしまうと、思わぬところで足元をすくわれることもあります。できれば1回は受講して基本的な知識や感覚は知っておいてほしいと思っています」
D&Iの授業と協働してインクルーシブキャンパスの実現を支えるのが、駒場キャンパスSaferSpace(KOSS)という教育プロジェクト。102号館にある部屋にはD&Iを専門とする研究者が常駐し、学生たちがアドバイスをもらったり、議論をしながらお互いに教え合ったりしています。
「自分たちのいる場所をインクルーシブなものにすることに取り組む。そのための知識や技術、経験がある学生を少しずつ堅実に社会に送りだしていきたいです」

以前は落書きが目立ちましたが、2019年にきれいに変身しました。

だいぶ減りましたが、まだ一部に和式も健在です。

小石川植物園の屋外トイレは傷みが激しく…。