極圏、砂漠、火山島に無人島、
5640mの高山から5780mの深海まで
自律的に海中を航行して南極の海氷データを計測するロボットがあります。
一昨年に南極でその力を証明し、今年再び当地でさらなる高みに到る予定の、MONACA。
その開発と運用を担う山縣先生に、前回の経験と今回の展望を聞きました。
海洋工学
極圏
南極の氷を調べる自律型海中ロボットの一番の理解者として
山縣広和
YAMAGATA Hirokazu
生産技術研究所巻研究室 特任研究員


ヒューマノイドから海中ロボットへ
64次観測隊として2022年に南極に行きました。48人いる夏隊の一人でした。コロナ禍対応の2週間の隔離を経て、11月に晴海を出航。オーストラリアに寄港し、昭和基地に着いたのはクリスマスでした。使命は研究室で開発したAUVを南極の海で動かすこと。AUVとは、無人で潜航して調査するロボットです。
地球温暖化で極圏の氷が融けていると言われます。衛星写真を見れば面積の増減はわかりますが、融けるのは主に海氷の水に触れる部分で、上空からは見えません。それを見に行くのが私たちのAUV、MONACA。南極観測船「しらせ」から出発し、ルンバのように自律的に潜航し、水質、海底地形、海氷地形のデータを取って戻るのが任務です。
私は小さい頃にホンダのヒューマノイドP2を見てロボット研究を志しました。修士の頃に研究がうまくいかず、悶々としていたときに雑誌で水中ロボコンの記事を見て、参加者が少ないので勝てるかもと思って参加し、ハマりました。このコンペティションが縁で現在の研究室に呼んでもらい、2017年に始まったMONACAプロジェクトに参加。ネジ一本の位置まで図面を引き、2019年に沼津で進水式を行い、下田や紋別でテストを繰り返しました。私はMONACAの生みの親であり育ての親であり、きちんと動いてくれるよう仕える世話係、いえ、奴隷かもしれません。


本番の不調を徹夜の分解作業で解決
迎えた本番では、当初うまく動いてくれず、世話係としては非常に悩ましい状況でした。日本で初めて砕氷船に乗ったAUVなので、当然ノウハウはなし。MONACAの重要な部品は耐圧の円筒に入っていて、できれば蓋は開けたくありませんでしたが、開けないと何がまずいのかわかりません。悩んだ末に蓋を開け、分解して徹夜※で調べたところ、ハンダが割れているところが1ヶ所あるとわかり、修復することができました。原因は、しらせの振動でした。砕氷が始まるとずっとガタガタと揺れ続け、山道をジープで走っているようなもの。この振動が続いたことでハンダが割れたようです。
※「白夜なので夜は2時間ほどしか
ないんですが(笑)」(山縣)
原因を見つけて対応し、MONACAは無事に任務を遂行しました。全20回の潜航を行い、全自動で進んで戻って来られることを証明しました。ただ、トラブルの可能性を潰し切れなかったため、今回は通信用ケーブルをつけた状態での潜航でした。万一の際、ケーブルがあれば通信で指令を出すことができ、機体を失わなくてすむからです。AUVで日本初の南極探査を行った成果にはもちろん胸を張れますが、次は無索で動かさないといけないでしょう。
今年12月に始まる66次観測隊への参加が決まり、MONACAの調整を続けています。64次観測の際の教訓として、専用台車に振動を吸収するサスペンションを追加し、固定のやり方も見直しました。7月に最後の海域試験を行い、10月にはしらせで運用テストを実施予定です。具体的な行動計画が決まるのは9月ですが、特に氷の融け方が顕著と目される重要海域で投入することになりそう。プレッシャーのためか体に異変が生じて手術を余儀なくされた前回の辛い経験も糧に、2度目の南極に臨みます。
南極のアデリーペンギンっス
Suicaのモデルになりました~