極圏、砂漠、火山島に無人島、
5640mの高山から5780mの深海まで
台湾、ザンビア、ガーナ、エチオピア、ベトナム……と飛び回ってきた鈴木先生の経歴は、多様な視点から途上国支援に取り組む姿勢を物語ります。
現地での観察と経済学の理論を軸に持続可能な開発と高付加価値農業の可能性を探る研究の一端を紹介します。
開発経済学 アフリカ
ガーナのパインにベトナムのエビ
生産から消費の間を捉える農産物研究
鈴木 綾
SUZUKI Aya
新領域創成科学研究科 教授
インフラ未整備ゆえの高いハードル
私は小6から高卒まで台湾で暮らしたため、幼い頃から日本人であることを意識し、先進国日本に生まれた意義を考えるうちに途上国への関心を深めました。大学卒業後は途上国支援の財団で働き、その後大学院に転じ、UNDP(国連開発計画)のインターンとしてザンビアへ。参加したのは、ザンビア、マラウィ、モザンビークの産業育成プロジェクトで、綿花産業を調査しました。途上国の事情は知っていたつもりですが、国連であってもあまりに物事が動かず驚きました。
次に行ったガーナでは、青果をEUに輸出するのにフランスから段ボールを輸入したり、加工業者は事業開始前に自費で施設に道路、水、電気を引いたりする必要があり、ビジネスを始める障壁の高さを実感。一方で、一つの会社の経済活動が雇用を通じて周辺住民に与える影響の大きさも感じました。
当時、高付加価値農業は貧困削減につながると、どの援助機関も全ての農民に参加を促していましたが、パイナップルの国際市場ではMD2という新品種へのシフトがあり、対応に遅れたガーナの農民は大打撃を受けました。多くの輸出業者は大規模農園での自社栽培をしていますが、なぜ小規模農家も同時に同市場に参加できるのかを分析すると、輸出業者は不確実な需要分を小規模農家からの購入で賄っていることが示されました。つまり、そのリスクに対応できる農家でなければ、この市場に参加するのは元々難しいということ。市場の特徴や農民の異質性を考慮した援助が重要であることを示す事例でした。
アフリカとの縁を育む学生活動も
その後は、エチオピアでバラの切り花産業を調べたり、ケニアやガーナでモバイルマネーの普及を調べたり。現地で調査し、経済学の理論と現実の違いに注目し、仮説を立てて検証するというやり方を続けてきました。長く携わってきたアフリカと東大の縁を深める活動も行っています。留学生交流イベントを機に発足したUTokyo African Students Unionでは、私の研究室のカメルーン人学生がリーダーを務めています。アフリカには課題も多いですが、その課題解決がビジネスに直結し、人口も若いのでスケールする可能性も高いです。インフラの不十分さは新しいデバイスなどが一気に広まる可能性を示します。
近年はアジアにも目を向け、ベトナムやインドネシアの養殖事情を調べています。世界では魚介類消費が増え、漁獲より養殖のほうが多い状況。東南アジアでは農地に水を引いて養殖したバナメイエビを輸出していますが、禁止された抗生剤を使ってしまい、海外の港で戻されるケースが見られます。農家の行動変容を促す介入や農家間の外部性の可視化についての研究を行っています。
私が高付加価値農業を対象にするのには、途上国の貧困を削減したいのに加え、先進国の消費者として身近な食べ物などの裏側を知りたいという気持ちもあります。多国籍企業の戦略や私たちの何気ない購買行動が川上の生産者に与える影響は大きいです。今後も生産と消費の間に注目して研究を続けます。