極圏、砂漠、火山島に無人島、
5640mの高山から5780mの深海まで
クラカタウ、マリアナ、西之島、バヌアツ……。
火山島の現地調査を通じて、火山の「人生」とも言える履歴に迫っているのが、火山地質学の前野先生。
仕組みの解明だけでなく、噴火の予測や災害軽減にもつながる研究を紹介します。
火山地質学 東南アジア
衛星画像だけでは見えてこない火山島の「人生」に上陸調査で迫る
前野 深
MAENO Fukashi
地震研究所 准教授
山体崩壊を起こした火山島に上陸
インドネシアのジャワ島とスマトラ島の間にクラカタウという火山島があります。1883年に歴史的大噴火があったこの島で、2018年に山体崩壊が起こり、併発の津波が沿岸域に甚大な被害をもたらしました。海底の火口から噴火し、水が激しく蒸発して土砂を巻き上げる、マグマ水蒸気爆発が続きました。小笠原周辺ではよく見られる様式ですが、山体崩壊と重なるのは稀。私は2014年に一度現地を訪れていたので、山体崩壊の前後を比べたいと思い、海外の災害を扱う国際連携プロジェクトに加わりました。
近年では衛星観測の解像度が上がり、地形の変化は上空からよく見えますが、噴火でどんなものが出たのかはわかりません。山体崩壊に即して何が起きたかを時系列で知るには、現地に赴いて堆積物を調べる必要があります。
2019年、他の研究者3名に現地の案内役を加えた調査チームで現地入りしました。水蒸気噴火が続いて島への滞在は危険なので、2キロほど離れた無人のパンジャン島にテントを設営。船でクラカタウに上陸し、数メートル規模で堆積した火山灰や溶岩から、マグマ分析に用いるサンプルを集めました。分析は研究室でないとできないので、現場では破片を拾ったりハンマーで溶岩の塊を割ったりとサンプル回収に集中です。どこを狙うかは衛星画像を見て決めました。地形変化の影響を受けていないと目された地点、火口付近、島の一番東側の3ヶ所です。日没前に離れる必要があって時間は限られましたが、約10キロの堆積物を持ち帰りました。
帰国後の分析で見えたのは、山体崩壊の前後でマグマの化学組成が変わったらしいことです。今回の分析値をグラフにしてみると、1883年の大噴火と崩壊前の近年の噴火との間に位置しました。大噴火では二酸化ケイ素の割合が高まる傾向がありますが、ここから何が導けるかは今後の分析次第です。
各々の火山のクセを解明したい
私は火山地質学が専門で、いま起きた噴火を知ることに加え、火山の長期的な履歴を知ることに興味があります。いわば火山の「人生」を知りたい。その山はどんな噴火を起こしやすいのか、どんなクセを持つのかを解明したい。クラカタウには大噴火を長期的に繰り返すクセがありそうですが、山体崩壊は意外でした。山が崩れるのは歳を取って弱るせいだと考えられますが、これは若い火山なのに崩れた。傾斜のある場所で火口や火道が動いたのが原因ではないかと睨んでいます。
これまで、火山のクセを知るために各地を調査してきました。西之島、福徳岡ノ場、薩南諸島、渡島大島、ギリシャのサントリーニ、カリブ海のモンセラート、フランス領のマルティニーク、マリアナ諸島……。もう数え切れません。9月にはバヌアツの火山島に赴きます。
南太平洋の島々と日本は、海底火山が多く、テクトニクスの状況が似ています。日本の知見を現地の被害軽減などに役立てられる一方、噴火の頻度が高い南太平洋での調査は日本の火山研究や火山活動の予測にもつながるはず。火山地質学は知的好奇心を刺激するのに加えて社会的意義も大きい分野だと自負しています。