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インクルーシブキャンパスになりきれていない 東大の現状.4|熊谷晋一郎

掲載日:2025年4月22日

悩める東大 悩める東大

インクルーシブキャンパスになりきれていない

ここ数十年で大きく向上した東大キャンパスのインクルーシブネス。
2024年には多様性包摂共創センター別ウィンドウで開く(IncluDE)も創設され、障害がある学生などへの支援の幅も広がりましたが、真のインクルーシブキャンパスになるにはまだ道半ばです。
自身も車いすユーザーとして、東大で学生時代を過ごしたIncluDE副センター長の熊谷晋一郎先生に、過去との比較、そして文化的な新たな課題について紹介してもらいます。

支援制度の充実で見えてきた「文化」の課題

障害に関する環境は向上

熊谷晋一郎
熊谷晋一郎
KUMAGAYA Shinichiro
先端科学技術研究センター 教授
多様性包摂共創センター(IncluDE)副センター長

私が東京大学に入学した1995年と比較すると、東大の障害に関するインクルーシブネスは飛躍的に向上しました。約30年前のキャンパスには、使い勝手の悪い車いすトイレが数えるほどしかなく、段差が多いために、必修の授業が行われる教室まで辿りつけないこともありました。

現在もまだ十分とは言えません。特に歴史的建造物に関してはバリアフリー化の工事を自由自在にすることはできないため、多くの課題が残ります。実験室のバリアフリー化や情報アクセシビリティなどの対策も必要です。

それでも、ここ数十年の間にキャンパスの環境は着実に進化してきました。制度面でも、2004年にはバリアフリー支援室が立ち上がっており、相談するとさまざまな調整をしてくれます。2024年には男女共同参画室と統合して多様性包摂共創センターが創設され、複数の軸で障壁を経験している方にも対応できるようになりました。

その一方で、文化的な側面で新たな課題が見えてきました。私が学生だった頃は、専門的部署がなかったために複数の教員が私の担当になり、一緒にキャンパスを練り歩いて使い勝手の悪さや必要なものを確認する、といった様々な支援をしてくれました。日常生活では、同級生がシフトを組んで料理やトイレ、入浴などを助けてくれました。山口から上京しての一人暮らしでしたが、いつの間にか合鍵が8本になり、家に帰ると常に誰かがいて小さなコミュニティが形成されていました。

安田講堂脇の「ピンコロ石」が敷き詰められた道
安田講堂脇の「ピンコロ石」が敷き詰められた道。車いすやベビーカーなどにとって危険なでこぼこ道を、2m幅ほど表面を削り平滑化しました。

相対的に薄れた支援も

このような、かつて私が経験したインフォーマルな支援に関しては、相対的に薄れてきているのではないでしょうか。以前は、それぞれの構成員が自分事として、障害のある学生と向き合い、行動していたような場面において、制度化以降、「専門部署があるからそこにまかせよう」となってしまうことが少なからずあるように感じています。他人事ではなく、どうやったら隣人として、仲間として、バリアフリーの問題を皆が感じ取れるキャンパスにしていけるのか。その文化的な障壁の打破が新しいチャレンジの一つです。

ただ、これは私が肌感覚で感じていることで、本当にそうなのかを検証する必要があります。海外では「climate survey」という、組織風土を数値化する取り組みを行っている大学があります。障害がある人にとって差別がないキャンパスだということを定期的に調査し、可視化しています。東大でもそのような取り組みを始めようと準備しています。

当事者が単にニーズを訴えるだけではなく、自らがキャンパスを作る主役になり、活動していく。そしてそれを大学が応援することも大切だと思います。私の研究テーマが、困難をもつ本人がその困難の解釈や対処法について探求する「当事者研究」だということもありますが、障害に限らず、様々な困難に直面する当事者と、多くの仲間が共に手を取り合って、キャンパスをよりよいものにしていく文化の醸成を目指して活動したいと考えています。

車いす利用者のための昇降機
2022年12月に駒場リサーチキャンパスの13号館に設置された、車いす利用者のための昇降機。地下につながる階段に設置された昇降機は、車いす利用者が介助者なしで乗れるように設計されています。
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