図書館施設の開館時間が短くなっている
3つの拠点図書館(総合・駒場・柏)と27の部局図書館・室が一体となって大学の知的基盤を支えているのが、東京大学附属図書館です。
2023年度、日本の大学として初めて蔵書数1000万冊を突破した図書館ですが、様々な要素が重なり、近年は財政難の問題を抱えているのも事実。
昨今の図書館事情を解説し、広く支援を呼びかけているのは、附属図書館長を務める坂井修一先生です。
財政難に負けずに知の基盤であり続けるために
教育でも国際競争が熾烈

SAKAI Shuichi
附属図書館長・副学長
附属図書館は図書や雑誌、電子ジャーナルなどの整備や学習環境の提供といった従来からの役割を担うとともに、現代の教育・研究に不可欠なDXにも取り組んでいます。本学は研究だけでなく教育の面でも国際競争に晒されています。DXが進む世界の大学との競争の中で高水準の教育を提供する必要があり、附属図書館もその一翼を担っています。
例えば、学術機関リポジトリ「UTokyo Repository」を整備し、本学で生産された多様な学術成果をオープンアクセス(OA)として世界に発信しています。また、本学が所蔵する膨大な学術資産をデジタル化し、「東京大学デジタルアーカイブポータル」
で公開する事業を進めています。このポータルサイトでは附属図書館の貴重書のほか、博物館・文書館や各部局が擁する学術資産の画像を見ることができ、本学の魅力を発信しています。
しかし、昨今は図書館の財政が圧迫されています。理由の一つは運営費交付金の減少です。本学への交付金額が減れば各部局への配分も減ります。図書館も例外ではありません。また、諸経費の高騰も大きな理由です。ご存じのように円安が進み、物価や光熱費、人件費なども上がっています。
附属図書館では特に円安の影響が大きく、為替レートが100円から150円になれば外国の図書や雑誌の購入費は1.5倍になります。その影響もあり、電子ジャーナル等の電子資料にかかる費用がこの9年間で2倍以上に増えています。また、多くの学生がグループ学習やディスカッションに利用する総合図書館別館ライブラリープラザ(LP)は、光熱費と人件費の高騰のため、開館時間を減らすという苦渋の決断をしました。開館時間を元に戻すには年間500万円程度の追加費用が必要です。
高額の論文掲載料に苦慮
DX推進のための経費も増加しています。2023年にG7が学術論文のOA化を推進する声明を出し、日本でも2025年度から公的な研究助成を受けた論文は原則としてOA化することになっています。OA化の手段としてUTokyo Repositoryで公開するほか、学術雑誌に論文掲載料(APC)を支払ってOAで掲載する方法もあります。しかしAPCも高額になっており、たとえばNature誌のAPCの目安は1論文で約190万円。そういった費用を何とかしようと学術出版社と交渉し数億円を節約しましたが、今後も維持できるかは不透明です。また、学術資産のデジタル化のための予算は全盛期の1/4程度。附属図書館として発信すべきことが十分にできなくなりつつあります。
附属図書館長として温めている構想があります。未来の新しい図書館としてデジタル図書館を構築し、多様な学問分野の各々に適した図書館機能のインタフェースを提供したいのです。いわば分野別メタバース図書館。たとえば生物学ならタンパク質の高次構造が三次元で示せるとか、古典の分野なら古代エジプトの象形文字が書かれた石碑の画像や発掘現場の動画まで見られるとか……。東大創立150周年にあたる2027年までにプロトタイプを示すべく、学内のVRやAIの専門家たちとチームを組んで意見を出し合っています。異分野の研究者が集まって話しているとヒントがどんどん出てきます。そういう場としても図書館が機能したら最高です。LPは円形なので、異分野の人たちが円卓の騎士のように闊達に話すのには最適な場かもしれません。
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