超高齢社会を支える看護学の人材が足りない
少子超高齢社会を迎え、「治す医療」から「支える医療」への大転換が求められています。
2017年に設立された医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター(GNRC)は、若手の看護学研究者の育成や異分野融合型研究の開発などを目的としています。GNRCセンター長の山本則子先生に、看護学研究の課題や、今後さらに増えていく高齢者をどう支えていけばよいのかなどについて話を聞きました。
社会全体で高齢者をケアするシステムづくり
若手研究者の研究力を磨く環境を

YAMAMOTO Noriko
医学系研究科教授/グローバルナーシングリサーチセンター長
看護学
日本では1990年代頃から看護学を学べる大学が急増し、今では、修士課程を設置している大学は約200件、博士課程は約100件存在します。問題は、研究力の高い研究者の育成が追い付いていないことです。学術誌に掲載された論文数も少なく、看護学研究が進んでいません。背景として、医学科の教育に比べて学生あたりの教員数が非常に少ないことが指摘されています。博士号を取得して大学に就職しても、すぐに実習に駆り出されてしまい、研究者として成長する機会がないままになってしまうというのが実情です。せめて1~2年は研究に集中し、研究力を磨いてほしい。そんな願いからGNRCを設立し、ポスドク(博士研究員)を採用し育成しています。看護学分野では非常に珍しいことです。
GNRCでは既存の研究方法だけでなく、異なる研究分野と融合した新しい研究方法の開発も目指しています。例えば、ロボットを使って看護現場で役立つプロダクトを開発したり、看護学研究に生化学や理工学系の手法を取り入れるなど、高齢化が進む日本の課題解決のためにも異分野融合型研究を展開していきたいと考えています。GNRCでは毎年2名のポスドク修了生を輩出したいと考えています。少ないと思うかもしれませんが、資金の問題で2名でも厳しい状況です。


超高齢者を支えるコミュニティづくり
日本の高齢化の特徴は85歳以上がとても多いことです。75歳くらいまでは自立度の高い人も多く、とても元気な人もいます。しかし、そこから自立度が低下する人が急速に増え、85歳を超えると何らかの形で支援が必要な人が多くなります。厚生労働省によると、85歳以上人口は2020年には約610万人。2035年には1,000万人以上になると推計されています。生産年齢人口が減少するなか、高齢者施設でも在宅でもケア人材が不足する時代がそこまできています。非常に大きな課題です。専門職だけでなく、一般市民にもケアの担い手になってもらい社会全体で支えていく必要があります。
GNRCでは一般の人たちとともにケアのあり方を考えていくラボを新年度に開設予定です。目白台の東大病院分院跡地に建設された高齢者向け施設の一角で、地域の住民にケアの仕方や医療を上手に受ける方法を学んでもらうワークショップなどを計画しています。ラボでは研究も遂行し、その成果を報告します。世界でもっとも高齢化が進む日本の取り組みとして、世界に向けても発信していきたいです。
「負担」などのネガティブなイメージで語られることが多い高齢者介護・ケアですが、ケアには単なる負担ではなく、人生に対して新しい視点を与えてくれる側面があります。与えるだけでなく、支えることで受け取れるものもある。そこを一番分かっているのは、看護・介護職の人たちだと思っています。その側面を発信し、ケアに対する価値観自体が変わっていくような働きかけの一助を担えればと思っています。

「令和4年版厚生労働白書」



看護学の若手研者の育成、異分野融合型研究の推進などに役立てます。日本の「支える医療」の中核となる看護学研究をご支援ください。