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酢酸(酢)が絶食・飢餓時において生存に必須であることを発見 -体温維持・血糖維持・運動能力保持などのエネルギー源に- 研究成果

酢酸(酢)が絶食・飢餓時において生存に必須であることを発見
-体温維持・血糖維持・運動能力保持などのエネルギー源に-

2009年2月4日
先端科学技術研究センター
 
  • 飢餓・絶食時に酢酸(酢)が体温や血糖を維持し、運動能力を保つなどのエネルギー源として大変重要であることが、東大先端研酒井寿郎教授らの研究グループにより明らかとなった
  • これは、同研究グループで発見した酢酸を活性化する酵素(AceCS2)を欠損させたノックアウトマウスの作製により明らかとなったものである
  • これまでも絶食・飢餓状態あるいは低インスリンの糖尿病状態で脂肪酸やケトン体が、ブドウ糖代わりとしてエネルギー源になることは知られていたが、今般の発見で酢酸もその役割を果たすのに重要であることが判明した
  • 酢酸を活性化する酵素を持たない欠損マウスが低インスリンダイエットによる抗肥満の効果が高いことも発見された
  • 今後はこの酵素阻害剤が抗肥満薬となる可能性など、糖尿病・生活習慣病の治療・対策における酢酸の重要性の解明が期待される

現代の飽食時代にあっても、発展途上国では多くの人々が飢餓で苦しんでいます。また、山や海の遭難事故によって絶食状態に陥った場合でも、体温を維持し運動能力を保持することは生きていくために必須の事柄です。

このたび、国立大学法人東京大学先端科学技術研究センターの酒井寿郎教授らの研究グループによって、このような飢餓・絶食時には酢酸が体温や血糖を維持し運動能力を保つ、といったエネルギーの源として大変重要であることが解明されました。これは数年前に同研究グループが発見した、酢酸を活性化する酵素(AceCS2)を欠損させた動物(ノックアウトマウス)の作製がきっかけとなって明らかになったものです。

我々は日常の調理で酢を使いますが、体内(肝臓)でも合成、血中に放出されています。これまで脂肪酸やケトン体が、絶食・飢餓といった食事を摂れない状態、あるいはインスリンの利用が極端に減少した糖尿病状態ではブドウ糖に代わり、エネルギーとして利用されることが生化学・内科学の教科書的知識として知られていました。今般の発見は日常的に用いられる酢酸が、ブドウ糖の吸収・利用が極端に低下した状態で、最終的なエネルギー源として必須であることを示した基本となる事例です。AceCS2は酢酸をアセチル-CoAという物質に活性化する酵素です。クエン酸回路ではこのアセチル-CoAがATP(アデノシン3リン酸)や電子伝達系で用いられるNADHなどを生じ、効率の良いエネルギー産生を可能としております。AceCS2を欠損した動物では絶食時に、このATPやNADHが欠乏し、燃料不足から低体温や持久運動の低下を来すというわけです。

こと、生後間もない授乳期には(糖分が少ないなど母親のミルクの成分に起因すると考えられますが)、酢酸の利用はことのほか重要で、AceCS2を欠損し、酢酸を利用できない動物は授乳期には成長に障害を来します。離乳後、通常の食事を摂るようになると成長は元に戻ります。しかし離乳後もブドウ糖の少ない食事をあたえると、酢酸を利用できない動物の場合、50%が低体温、低血糖となり死亡してしまいます。

一方、現代の飽食時代にあっては、肥満・メタボリック症候群が社会的にも問題になっています。米国では近年、低インスリンダイエット(低炭水化物ダイエット、いわゆるアトキンズダイエット)が、低脂肪食にかわる効果的ダイエットとしてブームになっています。今回の、酢酸を活性化する酵素を欠損したマウスでは、低インスリンダイエットによって体重増加がさらに抑えられることも明らかとなり、このダイエット法においては酢酸を活性化する阻害剤が今後、抗肥満薬として効果を上げる可能性が示唆されました。

以上のことから今後、糖尿病や肥満などの治療や対策における酢酸の重要性なども明らかにされていくことが期待されます。

【論文】
"Fasting Induced Hypothermia and Reduced Energy Production in Mice Lacking Acetyl-CoA Synthetase 2"が、
Cell Metabolism(電子版)(https://www.cell.com/cell-metabolism/fulltext/S1550-4131(08)00393-8)に2月4日付で掲載されています。

■本件問い合わせ先 
東京大学先端科学技術研究センター
酒井 寿郎 教授
 
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