PRESS RELEASES

印刷

小型イオン推進システムのエンジニアリングモデル開発に成功 -コスト・短期間で開発できる小型人工衛星用の利用拡大に貢献- 研究成果

小型イオン推進システムのエンジニアリングモデル開発に成功
-低コスト・短期間で開発できる小型人工衛星用の利用拡大に貢献-

2013年6月27日

1. 発表者
東京大学先端科学技術研究センター 小泉宏之 准教授
東京大学大学院工学系研究科 中須賀真一 教授(内閣府最先端研究開発支援プログラム中心研究者)
 
2. 発表のポイント: 
◆小型衛星用の小型イオン推進システムのエンジニアリングモデル(注1)開発が成功裏に終了し、フライトモデル(注2)開発のめどが立った。
◆「ほどよし4号」(2014年に打ち上げ計画)においてイオンスラスタの作動を実証へ。
 成功すれば、100 kgを下回る小型衛星における世界初の小型イオンスラスタの実証となる。
◆小型衛星の実用化へ道を拓く大きな一歩。
 
3. 発表概要: 
東京大学先端科学技術研究センター 小泉宏之准教授と次世代宇宙システム技術研究組合(代表理事:山口 耕司)が共同で小型イオン推進システム(MIPS:Miniature Ion Propulsion System)の開発を進めておりました。このたびMIPSエンジニアリングモデルの開発が成功裏に終了し、フライトモデル開発のめどが立ちました。これは、東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 中須賀真一教授が中心となり進めている最先端研究開発支援プログラム「日本発の『ほどよし信頼性工学』(注3)を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築」(以下「ほどよしプロジェクト」)の一環として行われています。

近年、高性能宇宙用推進機であるイオン推進システム(イオンエンジン)は、宇宙探査および商用衛星における実用化が急速に進んでいます。しかし、これまで100 kg以下の小型衛星に対する実用化は、電力およびサイズの制限により実施されていませんでした。本開発では低電力小型イオンスラスタを使用し、かつ各コンポーネントの小型化、軽量化、および低消費電力化を進めることで、50 kg級衛星への搭載が可能な小型イオン推進システムを完成させました。本成果により、小型衛星へのイオン推進システム搭載が実用化に一歩近づきます。

現在、「ほどよし4号」(2014年に打ち上げ計画)に搭載するフライトモデル(注2)の設計および開発を進めています。「ほどよし4号」での作動が実証できれば、100 kgを下回る小型衛星における世界初の小型イオン推進システムの実証となります。小型イオン推進システムが実用化されれば、小型人工衛星の利用は通信や放送、測位、地球観測、宇宙科学などの分野に限らず、教育や農林水産業、輸送業、エンターテイメントなど、幅広い分野で利用されるようになると期待されます。
 
4. 発表内容: 
小惑星探査機「はやぶさ」における活躍により大きな注目を集めたイオンスラスタ(イオンエンジン)は、その高い比推力、豊富な作動実績、精密な推力制御能力といった利点のため、現在人工衛星への実用化が急速に拡大しています。そして、このイオンスラスタは、低コスト・短期開発が可能で、近年研究開発が活発化している小型衛星用のスラスタとしても非常に適しています。しかしながら、これまでは、小型衛星に適合する電力消費量のイオンスラスタならびに推進システムとしてのサブコンポーネント開発が進んでおらず、100 kgを下回る小型衛星にイオンスラスタが搭載され、実用された例はありませんでした。

このような背景の中、東京大学先端科学技術研究センター 小泉宏之准教授は次世代宇宙システム技術研究組合と共同で、イオンスラスタを利用した新しい小型の推進システムの開発に取り組みました。この推進システムには、小泉准教授らが研究を進めている「低電力小型イオンスラスタ」が使用され、システムの低電力化および軽量化が図られています。さらに、このスラスタを駆動するための電源、ガス供給システム、制御器などのサブコンポーネント(注4)を、小型衛星に適したサイズおよび消費電力で新規に開発することにより、小型低電力のイオン推進システムの実現を目指しました。また、全システムをモジュール化することにより汎用性を高め、多くの小型衛星への適用が可能な設計とされています。

この小型イオン推進システムはMIPS: Miniature Ion Propulsion System と名付けられ、「日本発の『ほどよし信頼性工学』(注3)を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築」で開発・打ち上げする超小型衛星「ほどよし4号」に搭載される予定です。「ほどよし4号」の打ち上げは2014年に計画されており、打ち上げおよび作動実証が成功すれば、100kg以下の小型衛星における世界初の小型イオンスラスタの運用となります。  

これまでの開発の結果、機能・性能・環境試験などを経て、MIPSエンジニアリングモデル(EM)の開発が成功裏に終了しました。MIPS-EMにおいては、全質量7.9 kg(推進剤1.0 kg込み)および全消費電力39Wを達成し、50 kg級小型衛星に使用可能な推進システムの構築に成功しました。現在は、衛星に搭載するフライトモデル(FM)の設計および開発を進めており、フライトモデルではさらなる軽量化および低電力化が見込まれています。

これまで中・大型衛星の開発には莫大なコストと期間を要し、利用者はほとんど国や一部の企業に限られていました。利用法も通信・放送・測位・地球観測・宇宙科学など限定的でしたが、小型衛星は低コスト・短期間での開発が可能となります。小型イオン推進システムを搭載した小型衛星の運用が進めば、教育や農林水産業、輸送業やエンターテイメントなど様々な分野において小型衛星のミッションの幅が格段に広がることが期待されます。

なお、本システムの開発には、一部、科学研究費補助金による開発項目も含まれています。

5. 問い合わせ先: 
東京大学先端科学技術研究センター 小泉 宏之 准教授
次世代宇宙システム技術研究組合(担当 青山/里形)
 
6. 用語解説: 
(注1)機能・性能・環境試験などで設計の妥当性が確認され、次の詳細設計段階に移行するための設計を固めるためのデータを取得するためのモデル。 部品などの品質と信頼性 を除き、打上げ実機とほぼ同一仕様を持つ。
(注2)実際に宇宙に打ち上げるモデルで、実際の宇宙環境より厳しい環境での試験をクリアしている。
(注3)設計信頼度をとことん追究するよりも、性能・信頼性・コストのバランスがほどよくつりあうことを重視するという考え方に基づいた小型衛星研究開発プロジェクト。
(注4)イオンスラスタを作動させるために必要なコンポーネント。高電圧、マイクロ波、ガスを供給するコンポーネントや、衛星との通信を行う制御器が該当する。

7.添付資料
<MIPS(小型イオン推進システム)の構成と動作>
小型イオン推進システムの動作原理を下記に、構成をFigure 1に、性能諸元をTable1に示します。

・推進剤であるキセノンを高圧タンクに圧縮貯蔵する(初期状態7 MPa)
・流量制御システムによりイオン源および中和器に合計約25 μg/sのてキセノンを供給する
・イオン源および中和器それぞれにマイクロ波を投入しプラズマを生成する
・イオン源に1.5 kVの高電圧を印加しグリッドを通してプラズマからイオンを外部に高速で排出する
・中和器に最大-80V(典型値-30V)の負電圧を印加しオリフィスを通して電子を外部に排出する
・イオン源から高速排出されたイオンの反作用により宇宙が推力を受ける(典型値300 μN)
・中和器から放出される電子により宇宙機の帯電を防止する

100049513fig.1
Fig. 1   MIPS(小型イオン推進システム)の構成

 
 
Table 1  MIPS-EM性能諸元
全消費電力 39 W
質量 7.9 kg (推進剤 1.0 kg含む)
全体積 39 cm × 26 cm × 15 cm
推力 300 μN
比推力 1200 s
ΔV(速度増分) 240 m/s (50 kg 衛星に対して)
 
  <MIPS-EMの写真> 100049513fig.2

Fig. 2  MIPS-EM(小型イオン推進システムのエンジニアリングモデル)の外観

100049531fig.3

Fig. 3  ITU-EM(イオンスラスタユニットのエンジニアリングモデル)の外観;
上側円筒形部分が中和器であり6個の穴から電子を放出する。
下側円筒形部分がイオン源であり211個の孔からイオンビームを排出する。
アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる