新しい運動の学習で主体感が生じるプロセスを解明 ――試行錯誤を通して「私の動き」という感覚が生じるしくみ―― 研究成果

発表のポイント
◆「自分の運動が何かを引き起こしている」という感覚を行為主体感と呼びます。今回の研究では、新しい運動技能を初めて学ぶ際に、どのようにこの感覚が生まれるのかを明らかにしました。
◆従来は運動によって自分の予測通りの結果が生じることが主体感の生起条件と考えられていましたが、今回の研究は、予測ができない時点から試行錯誤を通して、運動と結果の関係性を「身体で覚える」ことが主体感を強める重要な要素であることを示しました。
◆怪我や病気に伴うリハビリや仮想現実(VR)内のアバターの操作など、これまでとは違う身体の動かし方を学習する必要が生じた際に、主体感を維持・向上させる技術の開発に寄与することが期待されます。
◆従来は運動によって自分の予測通りの結果が生じることが主体感の生起条件と考えられていましたが、今回の研究は、予測ができない時点から試行錯誤を通して、運動と結果の関係性を「身体で覚える」ことが主体感を強める重要な要素であることを示しました。
◆怪我や病気に伴うリハビリや仮想現実(VR)内のアバターの操作など、これまでとは違う身体の動かし方を学習する必要が生じた際に、主体感を維持・向上させる技術の開発に寄与することが期待されます。

試行錯誤によって「自分の動き」という感覚が生まれる。
概 要
東京大学大学院人文社会系研究科の田中拓海助教と今水寛教授は、人が新たな運動技能を学習する過程で「これが私の動きだ」という感覚(行為主体感:以下「主体感」)がどのように生まれるかを明らかにしました。従来の理論では、運動によって予測通りの結果が生じたときに、人はその運動や結果を「自分が引き起こした」と感じると考えられてきました。しかし、初めてある運動に挑戦するときのように、結果が予測できない状況でどのように主体感が形成されていくのかは未解明でした。本研究では、実験参加者にとって未経験である、手指の運動でスクリーン上のカーソルを操作するといった特殊な運動課題を使うことでこの問題に取り組みました。実験の結果、明示的に教えられるのではなく、試行錯誤を通して運動と結果の対応関係を身体で覚えることが、主体感の獲得に重要であることが示されました。本成果は、怪我や病気に伴うリハビリや仮想現実(VR)環境下でのアバターの操作など、これまでとは異なる身体の動きを学習する場面において、主体感の維持・向上を支援する技術開発につながることが期待されます。
東京大学大学院人文社会系研究科の田中拓海助教と今水寛教授は、人が新たな運動技能を学習する過程で「これが私の動きだ」という感覚(行為主体感:以下「主体感」)がどのように生まれるかを明らかにしました。従来の理論では、運動によって予測通りの結果が生じたときに、人はその運動や結果を「自分が引き起こした」と感じると考えられてきました。しかし、初めてある運動に挑戦するときのように、結果が予測できない状況でどのように主体感が形成されていくのかは未解明でした。本研究では、実験参加者にとって未経験である、手指の運動でスクリーン上のカーソルを操作するといった特殊な運動課題を使うことでこの問題に取り組みました。実験の結果、明示的に教えられるのではなく、試行錯誤を通して運動と結果の対応関係を身体で覚えることが、主体感の獲得に重要であることが示されました。本成果は、怪我や病気に伴うリハビリや仮想現実(VR)環境下でのアバターの操作など、これまでとは異なる身体の動きを学習する場面において、主体感の維持・向上を支援する技術開発につながることが期待されます。
論文情報
Takumi Tanaka* & Hiroshi Imamizu (*責任著者), "Sense of agency for a new motor skill emerges via the formation of a structural internal model," Communications Psychology: 2025年4月29日, doi:10.1038/s44271-025-00240-7.
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