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専門知識は創作活動を妨げるのか?~専門知識が注意配分パターンならびにアイデアの質に与える影響の分析~研究成果

掲載日:2021年9月14日

発表のポイント

  • 専門知識の多い人よりも少ない人の方が、関連する創作活動において優れたパフォーマンスを示すことは先行研究で報告されていますが、その理由は明らかになっていませんでした。
  • 本研究では、認知科学的な実験とオンライン上の大規模データの分析に基づいて、専門知識の量が注意配分パターンに影響を与え、そのことが創作活動におけるパフォーマンスに影響すること(図1)を初めて明らかにしました。
  • 専門知識の量、注意配分パターン、ならびに創作活動の質の三者間の関係を示した本研究の成果は、実社会でのイノベーション活動にも新たな知見を提供するものと考えられます。

発表概要

 専門知識が豊富なほど優れた創作活動が行えるという予想に反して、専門知識が少ない人の方が優れたパフォーマンスを示すという現象が、多くの先行研究で報告されています。実際の製品についても、開発のための豊富な専門知識をもつ企業や研究所の開発者などではなく、使い手である一般ユーザが新しいアイデアを生み出す事例が見られます。東京大学大学院総合文化研究科の楊 鯤昊 大学院生、植田 一博 教授らの研究チームは、オンライン上での実験とウェブサイトスクレイパーを通じて、創作活動において専門知識の少ない人の方が優れたパフォーマンスを示す理由を明らかにしました。

 具体的には、スピーカー(ステレオ、PCなどに用いられるスピーカーや、AIスピーカーなど)の新たな機能に関するアイデアについて、オンライン実験のデータとAmazon.com上の商品レビューデータを、数理統計ならびに機械学習の手法を用いて分析しました。そして、創作活動の参加者がもっている、スピーカーの工学的原理と応用、その基礎となる音響学の専門知識の量、本人が所有しているスピーカーを写真に撮る際の注意配分パターン、ならびにスピーカーに関する新しいアイデアの質を測定し、三者の関係を分析しました。その結果、専門知識の多い人は集中的な注意配分パターン(図2-(ア))をもつ傾向があり、そのことが彼らのアイデアの質にネガティブな影響を与えることがわかりました。これに対して、専門知識の少ない人は分散的な注意配分パターン(図2-(イ))をもつ傾向があり、そのことが彼らのアイデアの質にポジティブな影響を与えることを明らかにしました(図1)。

 本研究では、認知科学実験ならびにオンライン上の大規模データの分析により、専門知識の量が注意配分パターンに影響を与え、そのことが創作活動におけるパフォーマンスに影響することを初めて明らかにしました。専門知識の少ない人の方が多い人よりも創作活動において優れたパフォーマンスを示す理由、すなわちユーザ・イノベーションが生じる仕組みの一端を明らかにした本研究の成果は、現実でのイノベーション活動の実践にも新たな知見を提供するものと考えられます。

図1:研究結果のまとめ
本研究では、メインデータセット(ア)と補足データセット(イ)の両方において同様な結果が得られました。すなわち、専門知識の多い人は集中的な注意配分パターンをもつ傾向があり、そのことが彼らのスピーカーに関するアイデアや意見の質にネガティブな影響を与えていることがわかりました。これに対して、専門知識の少ない人は分散的な注意配分パターンをもつ傾向があり、そのことが彼らのスピーカーに関するアイデアや意見の質にポジティブな影響を与えていることを明らかにしました。矢印に付随した数字は、本研究で解明された各要素の間の影響関係の強さ(パス係数)を示しています。正の値は「ポジティブな影響」を、負の値は「ネガティブな影響」を示しています。赤色は影響が統計的に有意であることを、青色は影響が統計的に有意ではないことを示しています。

図2:集中的な注意配分パターンと分散的な注意配分パターンをもつ人が撮ったスピーカーの写真の典型例
(ア)は、集中的な注意配分パターンをもつ人が撮ったスピーカーの写真の典型例を示しています。集中的な注意配分パターンをもつ人は、注意をスピーカー(対象)に集中するため、写真に撮る場合でも、スピーカーをアップにして大きく写す傾向があります。これに対して(イ)は、分散的な注意配分パターンをもつ人が撮ったスピーカーの写真の典型例を示しています。分散的な注意配分パターンをもつ人は、注意をスピーカーの周囲の環境にも分散するため、写真に撮る場合でも、スピーカーを引いて小さく写す傾向があります。

論文情報

Kunhao Yang*, Itsuki Fujisaki, Kazuhiro Ueda*, "More knowledge causes a focused attention deployment pattern leading to lower creative performances," Scientific Reports(Nature Portfolio Journal): 2021年9月14日, doi:10.1038/s41598-021-97215-5.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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