PRESS RELEASES

印刷

くるくる泳ぐ微生物 螺旋軌跡の3Dイメージング ~マイクロロボットの設計に向けて~研究成果

掲載日:2021年10月21日

発表者

丸茂 哲聖(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 修士課程2年)
山岸 雅彦(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 特任研究員)
矢島 潤一郎(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 附属先進科学研究機構/生物普遍性連携研究機構 准教授)

発表のポイント

  • モデル生物である繊毛虫テトラヒメナ(注1)の螺旋遊泳を初めて三次元的に定量し、その螺旋の回転方向と細胞体の自転方向を明らかにしました。
  • 繊毛打の方向を変えるCa2+刺激を受けた細胞が後ろ向き遊泳や逆回転の螺旋遊泳といった幅広い遊泳パターンを示したことから、変化しうる繊毛打の方向によって細胞の遊泳パターンが決定されている可能性が示唆されました。
  • 低レイノルズ数(注2)の世界で生きる繊毛虫一細胞の遊泳メカニズムの解明に繋がるとともに、遊泳の螺旋方向のように運動におけるキラリティ(注3)が選択され、生存に効率的な遊泳を実現する機構の解明の手掛かりとなります。

発表概要

 低レイノルズ数の世界で暮らす微生物・繊毛虫は、その細胞表面に存在する多数の細胞小器官・繊毛を協同的に動かすことで水中を遊泳する真核単細胞生物です。なかでもテトラヒメナはモデル生物として広く扱われ、螺旋を描くように遊泳することが知られていましたが、螺旋の方向を含む三次元遊泳パターンの詳細な報告はなされてきませんでした。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻・附属先進科学研究機構および同大学生物普遍性連携研究機構の矢島潤一郎准教授らは、独自に開発をしてきた三次元位置検出光学顕微技術を用いて、繊毛虫テトラヒメナが右手系の回転をしながら右螺旋を描くように遊泳していることを定量し、またCa2+刺激により螺旋遊泳パターンが揺らぐことを明らかにしました。本研究成果は、繊毛虫一細胞の三次元遊泳メカニズムの一端を明らかにしたものであり、この成果により、今後繊毛虫の外部刺激に対する走性機構の解明に繋がるとともに、バイオミミクリー(注4)を活用したマイクロロボットの設計指針となることが期待されます。

研究の背景

 繊毛虫テトラヒメナはモデル生物として70年以上前から広く扱われており、二度のノーベル賞受賞を含む分子生物学上の発見をもたらしてきました。テトラヒメナの遊泳は、同じ繊毛虫に属する別種のゾウリムシの遊泳と同様、初等・中等教育においてよく取り扱われている題材であり、実際にその細胞を顕微鏡で見てみると螺旋遊泳をしている様子が観察できます。しかし、その螺旋方向は錯視のように右手回転にも左手回転にも見えてしまい、正確に判別することができません。これは、細胞体が小さく透明であるうえに遊泳が速く、立体的な情報を得ることが難しいためであり、これまでの研究では螺旋方向や細胞自体の回転方向に関する定量的な報告はなされてきませんでした。

研究内容

 本研究グループは、独自に開発してきた三次元位置検出光学顕微技術を用いて、細胞内に蛍光ビーズを取り込ませたテトラヒメナの遊泳をイメージングし、その軌跡の三次元定量を行いました。その結果、テトラヒメナが右螺旋を描くように遊泳していることを明らかにしました(図1)。また、細胞内に2輝点を持つ個体におけるそれぞれの輝点の軌跡に注目することで、右螺旋を描いて遊泳する際に細胞体自体が右回転していることを明らかにしました。加えて、繊毛打が逆転するような脱分極性のCa2+刺激を与えて変化した遊泳パターンの三次元イメージングを行い、後進性の右螺旋遊泳や前進性の左螺旋遊泳といった特殊な遊泳パターンを示すことを見出しました(図2)。この結果から、脱分極性の刺激による繊毛打の方向変化は、順方向・逆方向を完全にスイッチするものというよりはむしろ連続的に変化しうるものであり、繊毛打方向の変化が繊毛虫の遊泳パターンを決定している可能性が示唆されました。

図1.実験系と繊毛虫テトラヒメナの三次元遊泳軌跡 テトラヒメナ細胞内に取り込ませたマイクロビーズ(直径200 nm)を三次元位置検出顕微鏡でトラッキングすることにより、細胞の三次元遊泳軌跡を取得した。左上図:三次元位置検出顕微鏡の概略図。左下図:マイクロビーズを取り込んだテトラヒメナ細胞が螺旋遊泳をする際の模式図。右図:実際に得られた細胞の三次元遊泳軌跡。本研究では、テトラヒメナが右手回転の螺旋を描くように遊泳していることが明らかになった。
図2.Ca2+刺激条件下における繊毛虫テトラヒメナの三次元遊泳軌跡 細胞膜に穴を空けたテトラヒメナ細胞にCa2+刺激を与えた際の三次元遊泳軌跡を取得した。左図:細胞は右手回転の螺旋を描きながら後ろ向きに泳いだのち、方向転換をして通常の遊泳に戻った。右図:細胞は左手回転の螺旋を描きながら前方向に泳いだのち、方向転換をして通常の遊泳に戻った。

今後の展開

 本研究の結果より、繊毛虫の遊泳パターンは連続的な変化が可能であり、それらは繊毛打の方向によって決定されるものであることが推定されました。今後は実際の繊毛運動と遊泳パターンの両方をイメージングすることで、一細胞の遊泳メカニズムが明らかにされていくことが考えられます。また、遊泳システムに内在する運動の非対称性を生む原因を探ることで、生命体のあらゆる階層で生存に適したキラリティが選択される仕組みの起源にも迫れる可能性があります。

用語解説

(注1)繊毛虫テトラヒメナ:長軸約50 µm、短軸約25 µmの洋ナシ形の形状をした真核単細胞生物であり、細胞表面に生えた繊毛と呼ばれる多数の毛状構造を協同的に動かすことで運動を行っている。

(注2)低レイノルズ数:微生物にとっての水中は低レイノルズ数な環境であり、慣性ではなく粘性が支配的となっている。そこで生きるということは、我々で例えるならばハチミツのようなドロドロした水中を泳ぐということであり、我々人間の生きる環境とは全く異なる振る舞いが必要である。

(注3)キラリティ:右手と左手の関係のように、鏡像関係ではあるが重なり合うことがない物性をキラリティという。生物におけるキラリティは生体における非対称性を生み出し、発生段階における左右軸の決定や器官の配置などに重要な役割を担っていると考えられている。

(注4)バイオミミクリー:生物から得たアイデアを技術開発に応用すること、あるいはそうして開発されたものをバイオミミクリーという。生体の構造や仕組みは長年の進化・適応によって高い合理性や効率性を有していることが多く、それらを模倣することで優れた機能を得られる可能性がある。

論文情報

Akisato Marumo, Masahiko Yamagishi, Junichiro Yajima, "Three-dimensional tracking of the ciliate Tetrahymena reveals the mechanism of ciliary stroke-driven helical swimming," Communications Biology: 2021年10月21日, doi:10.1038/s42003-021-02756-0.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

関連リンク

関連教員

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる