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卵が時間の余裕をつくり精子の変身を助ける ~哺乳類の受精卵特有のしくみを解明~ 研究成果

掲載日:2018年10月5日

 受精卵の中では、卵と精子がもっていた染色体から1つずつ核(雌性前核と雄性前核(注1))が作られます。多くの脊椎動物では受精開始から30分ほどで前核が作られるのに対し、哺乳類では数時間かかるという特性があります。しかし、前核形成まで数時間かかるのはどのようなしくみによるのか、またどのような重要性があるのかは明らかになっていませんでした。
 東京大学総合文化研究科の添田翔特任研究員、大杉美穂教授らは、これまで卵での役割が哺乳類でのみ不明であったRSK(p90 ribosomal S6 kinase)というタンパク質リン酸化酵素(注2)が、哺乳類の受精卵特有の時間制御を担っていることを見出しました。また、マウス受精卵の前核形成までの時間を人為的に短くしたところ、受精卵が分裂する際に精子由来の染色体が正常に受け継がれないことが明らかになりました。
 本研究により、哺乳類は精子の核を受精卵の雄性前核へと変換するために長い時間を必要とし、卵にはその時間を保証するしくみが備わっていることが示されました。受精は普遍的な生命現象ですが、哺乳類は特有のしくみをもつことがわかり、ヒトや畜産動物の不妊の原因解明につながることが期待されます。

 

用語解説:
(注1)前核
受精卵内につくられる、ゲノム1セット分の染色体を含む核。卵由来の染色体からできる前核を雌性前核、精子由来の染色体からできる前核を雄性前核という。
(注2)タンパク質リン酸化酵素
タンパク質を構成するアミノ酸のうち、主にセリンやスレオニン、またはチロシンの側鎖に、アデノシン三リン酸(ATP)からリン酸基を転移する酵素。キナーゼ。リン酸化されたタンパク質は構造や活性が変化することが多い。

論文情報

Shou Soeda, Kaori Yamada-Nomoto, Tatsuo Michiue, and Miho Ohsugi, "RSK-MASTL pathway delays meiotic exit in mouse zygotes to ensure paternal chromosome stability," Developmental Cell: 2018年10月5日

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