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荻生家所蔵の荻生徂徠関係資料、東京大学駒場図書館に寄贈記者発表

掲載日:2022年5月9日

発表者

石原 あえか(東京大学 大学院総合文化研究科図書館長/同研究科 教授)
石田 淳 (東京大学 駒場図書館長/同大学 大学院総合文化研究科 教授)

発表のポイント

  • 江戸時代を代表する儒学者である荻生徂徠(おぎゅう そらい、1666-1728)(注1)に関わる荻生家所蔵の資料が、徂徠の御子孫である荻生茂樹(おぎゅう しげき)氏・庄子妙子(しょうじ たえこ)氏より、東京大学駒場図書館(注2)に寄贈されました。
  • 寄贈された約150点の資料には、徂徠の推敲の過程を追うことができる徂徠自筆の稿本や従来知られていなかった徂徠学派の資料が含まれています。
  • 荻生徂徠の学問は、江戸時代の学芸のあらゆる領域に影響を与えており、本資料の調査・分析によって、江戸時代の思想・文化の研究が大きく進展することが期待されます。

発表概要

 2021年12月に、荻生徂徠の御子孫である荻生茂樹氏と庄子妙子氏より、東京大学駒場図書館に荻生家所蔵の貴重資料が寄贈されました。荻生徂徠は、江戸時代を代表する儒学者であり、彼の学問の影響は当時の文化の多方面に及んでいます。今回寄贈された約150点の資料には、徂徠自筆の稿本など徂徠学派に関する第一級の資料が含まれており、調査が進むことで、新出の資料が発見されることが期待されます。このような貴重な資料が、散逸せずに現在まで継承されてきたのは、荻生茂樹氏・庄子妙子氏を含む荻生家代々が学術研究に深い理解を有し、資料の整理・保存に努められてきたからです。今後、東京大学駒場図書館は荻生家歴代の志を受け継ぎ、資料の調査・整理を進め、その管理体制を確立した後に、本資料を広く公開する予定です。本資料によって、江戸時代の思想・文化の研究が大きく進展することが期待されます。

発表内容

 2021年12月に、荻生徂徠の御子孫である荻生茂樹氏と庄子妙子氏(茂樹氏の姪、旧姓荻生)より、東京大学駒場図書館に荻生家所蔵の貴重資料が寄贈されました。米国に帰化された建築家である荻生茂樹氏が、御母堂の逝去を機に、東京の荻生家に伝存する資料を公共の財産として保存・公開することを考えられ、2021年5月に東京大学駒場図書館に資料の寄贈を打診なさり、東京大学駒場図書館運営委員会・総合文化研究科図書委員会における検討を経て、寄贈が行われました。貴重な資料を御寄贈下さった荻生茂樹氏・庄子妙子氏を御招きして寄贈式を開催する予定ですが、コロナ禍の影響で開催の目途が立っていないため、式に先立って寄贈について公表することにしました。

 荻生徂徠は、江戸時代を代表する儒学者であり、朱子学(しゅしがく)を批判し、「徂徠学」と称される独自の学問体系を構築したことで有名です。徂徠の学問は、儒学だけでなく、当時の学芸の様々な領域に影響を与えており、賀茂真淵(かもの まぶち、1697-1769)・本居宣長(もとおり のりなが、1730-1801)のいわゆる「国学」においても、山脇東洋(やまわき とうよう、1706-1762)らの「古方」(こほう)と呼ばれる医学においても、徂徠の議論は重要な基盤となっています。徂徠抜きに江戸時代中期・後期の学芸を語ることができないほど、江戸時代の思想・文化の歴史において徂徠は非常に大きな存在です。

 寄贈資料は約150点で、徂徠の御子孫である荻生家の歴代及びその親族によって継承・収集されてきたものです。徂徠自筆の稿本や、従来知られていなかった徂徠の門人の資料、徂徠の肖像画や印が含まれています。今後、整理が進むことで、新出の資料が発見される可能性もあります。貴重な徂徠自筆の稿本には、『五言絶句百首解』(ごごんぜっくひゃくしゅかい)、『滄溟七絶三百首解』(そうめいしちぜつさんびゃくしゅかい)、『広象棋譜』(こうしょうぎふ)、『琉球聘使記』(りゅうきゅうへいしき)などがあります。『五言絶句百首解』『滄溟七絶三百首解』は、明王朝の時代の漢詩に徂徠が注釈を付したもので、『絶句解』(ぜっくかい)『絶句解拾遺』(ぜっくかいしゅうい)の稿本に当たります。改訂の跡が生々しく残り、編纂過程の詳細をたどることができます。後述するように、荻生家所蔵の主要な資料は、1970年代にマイクロフィルムに撮影され、それを印刷した資料が存在しています。しかし、改訂箇所は判読が困難であり、今回寄贈された資料によって、本格的な研究が可能になりました。『広象棋譜』は、徂徠が考案した独自の将棋のルールブックであり、『琉球聘使記』は、宝永七年(1710)の琉球使節に関する記録で、琉球の歌・音楽について詳述しています。徂徠は、儒学だけでなく、文学・兵学・音楽など様々な学問領域に足跡を残しており、荻生家所蔵の資料は、徂徠の学問的な視野の広さを反映したものであると言えます。

 このような貴重な資料が、散逸せずに現在まで継承されてきたのは、荻生茂樹氏・庄子妙子氏を含む荻生家代々の努力があったからです。荻生茂樹氏の御尊父である荻生敬一(おぎゅう けいいち、1924-2010)氏は、みすず版『荻生徂徠全集』編纂の際には資料撮影を許諾し、東京国立博物館における特集陳列「荻生徂徠の書」(1978年)の開催に力を尽くされました。また、荻生茂樹氏の御実弟で、庄子妙子氏の御尊父である荻生茂博(おぎゅう しげひろ、1954-2006)氏は、日本思想史の研究者であり、江戸儒学に関する多くの論考を遺されました。学術研究に対する深い理解を有した荻生家の方々のおかげで本資料は今日まで伝えられてきました。今回の寄贈が実現したのも、荻生茂樹氏・庄子妙子氏が、将来にわたって資料が体系性を保った状態で、研究に広く役立てられることを願われたからです。東京大学駒場図書館は荻生家歴代の志を受け継ぎ、資料の保管・公開に努めていきます。

 東京大学駒場図書館及び東京大学教養学部国文・漢文学部会所属教員、とりわけ近世日本思想史を専門とする高山大毅准教授を中心に、資料の調査・整理を進め、管理体制を確立した後に、研究資料として広く公開することを予定しています。本資料によって徂徠及びその門流の学問に対する新たな角度からの研究が可能になり、江戸時代の思想・文化の研究が大きく進展することが期待されます。

問い合わせ先

東京大学駒場図書館
E-mail:komasen(末尾に"@lib.c.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

用語解説

(注1)荻生徂徠(1666-1728)
江戸中期の儒学者。名は双松(なべまつ)、字は茂卿(もけい)、通称は惣右衛門(そうえもん)。徂徠は号で、中国風に物茂卿(ぶつ もけい)と称することもあった。徳川綱吉に仕えた医者の荻生方庵(おぎゅう ほうあん)の子であり、儒学を修め、柳沢吉保に登用された。当初は朱子学を信奉していたが、享保年間(1716-)に入ると朱子学を批判し、『弁道』(べんどう)、『弁名』(べんめい)、『論語徴』(ろんごちょう)などの著作を執筆し、徂徠学と称される学問体系を作り上げた。また、徳川吉宗の諮問に答えて『太平策』『政談』といった政策提言の書を献上した。文学の領域においては、明代の李攀龍(り はんりょう)・王世貞(おう せいてい)を模範とする詩文を広めたことで知られる。

(注2)東京大学駒場図書館
東京大学駒場キャンパス(東京都目黒区駒場3-8-1)にある、東京大学の3つの拠点図書館(本郷キャンパスの総合図書館、駒場キャンパスの駒場図書館、柏キャンパスの柏図書館)の一つ(東京大学には他に27の部局図書館・室がある)。駒場図書館は、大学院総合文化研究科図書館を兼ね、前期課程の学生(1年生および2年生)が入学して最初に利用する図書館として、幅広い分野の図書と学習環境を備える。

添付資料

*資料写真については、本件の報道以外の目的での無断利用はご遠慮ください。
写真提供:東京大学駒場図書館(いずれも東京大学駒場図書館所蔵)

写真1 「徂徠先生画像」(荻生徂徠の肖像画)(東京大学駒場図書館所蔵)
写真2 荻生徂徠『五言絶句百首解』(徂徠自筆の稿本)(東京大学駒場図書館所蔵)

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