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ピンチの時に酵母は新参者を殺す――Latecomer killingの発見――研究成果

掲載日:2022年11月8日

発表者

小田 有沙(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教)
畠山 哲央(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教)
太田 邦史(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 教授)
金子 邦彦(コペンハーゲン大学 ニールスボーア研究所 教授/東京大学名誉教授 )

発表のポイント

  • 酵母が、グルコース飢餓状態で毒を出し、かつその毒に対して耐性を獲得することで、自分は死なずに周囲の微生物を同種他種問わず殺すという戦略を示すことを発見した。
  • 発見した現象を「新参者殺し」(Latecomer killing)と名づけ、毒を新規に特定し、新規適応機構も発見した。
  • 微生物の増殖を制御するのに有用であり、また単細胞生物から多細胞生物への進化の理解の一助となると考えられる。

発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科の小田有沙助教、畠山哲央助教らの研究グループは、グルコース飢餓という危機的な状況において、単細胞菌類である酵母が、たとえ自らのクローン(注1)であっても他の微生物を殺してしまうという新規の現象を見出しました。この時、あらかじめグルコース飢餓に適応していた酵母たちは、毒を出すとともに、自らがその毒に耐性を獲得することによって、後から侵入してきた微生物だけを選択的に殺します。そこで、この現象を「新参者殺し」(Latecomer killing)と名づけました。

 単細胞生物が自らのクローンを殺す、一見自殺のように見えるこの現象は、従来は知られておらず、本発見は微生物が生態系を形作る上で、いかに複雑なコミュニケーションを行っているのかを解明する一端となります。また、本研究で新たに発見されたグルコース飢餓条件下特異的に作用する毒は、工業的にも微生物の増殖を制御するのに有用であると考えられます。さらに、自らの増殖を抑制するアポトーシス(注2)などの機構は多細胞生物の発生に必須であることから、本研究で見出された、単細胞生物における相互作用を介した細胞死は、単細胞生物から多細胞生物への進化を理解する上でも重要な意味を持っていると考えられます。

 
図.新参者殺しの概要
上)新参者殺しを発見した実験の概要図。酵母細胞をグルコースなどの糖のない環境下で培養すると、自分と全く同じ遺伝情報を持つクローンも死ぬ毒を放出する。そこに、毒に対して適応していない新参者細胞が入ると、新参者細胞は死んでしまう。
左下)さまざまな長さの時間、酵母を培養した培地中での新参者細胞の増殖曲線。培養時間が異なる培地中での増殖を、それぞれ異なる色の線で表している。培養時間が短いと、酵母が培地中に放出した毒が少なく、新参者細胞もすぐに増殖を開始する。一方で、培養時間が長いと、酵母は培地中に大量の毒を放出するため、ほとんどの細胞は死んでしてしまい、わずかに残った生存した細胞の増殖が死んだ細胞のために観測されず、結果的に全体の増殖が非常に遅れるように見える。
右下)毒素に適応した先駆者細胞中に、新参者細胞が侵入してきた状況を模した実験の結果。先駆者細胞は毒素の存在下でも生存・増殖でき、その割合を増やしていくのに対して、新参者細胞はそのほとんどが死んでしまうので、最初は増殖できずに割合は減っていってしまう。その後、僅かに残った新参者細胞の増殖が先駆者細胞の増殖と釣り合うと、割合が一定になる。
 

発表詳細は大学院総合文化研究科のページからご覧ください。

論文情報

Arisa H. Oda*, Miki Tamura, Kunihiko Kaneko, Kunihiro Ohta, Tetsuhiro S. Hatakeyama*, "Autotoxin-mediated latecomer killing in yeast communities," PLOS Biology: 2022年11月7日, doi:10.1371/journal.pbio.3001844.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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