海洋エアロゾル成分の真の光吸収効率の決定 ――気候変動の予測精度の向上に貢献――研究成果
2023年9月21日
東京大学
筑波大学
発表のポイント
- 海洋エアロゾルに含まれる脂肪酸の光吸収効率を決定することに成功。
- 「脂肪酸は太陽光をよく吸収する」という90年以上信じられてきた定説を覆した。
- 気候変動の予測に重要な海洋エアロゾルで起こる光反応の理解に貢献。
発表概要
東京大学大学院総合文化研究科の齊藤翔大大学院生、寺岡秀将大学院生、沼舘直樹特任助教、小林広和准教授、羽馬哲也准教授、筑波大学数理物質系化学域の江波進一教授らの研究グループは、気候変動の予測に重要な海洋エアロゾル(注1)の未解決問題であった「脂肪酸(注2)の光吸収」について、独自の超高純度精製法を開発することで脂肪酸の真の光吸収を決定することに成功しました。その結果から、これまで考えられてきた仮説には重大な誤りが含まれることが明らかになりました。
脂肪酸の光吸収は90年以上研究されてきた歴史があり「脂肪酸は太陽光をよく吸収する」と考えられてきましたが、その起源については未だにわかっていませんでした。本研究では海洋エアロゾルに含まれる代表的な脂肪酸であるノナン酸[CH3(CH2)7C(O)OH]について、試薬に含まれる不純物を独自に開発した精製装置により徹底的に取り除いたところ、太陽光をほぼ吸収しなくなりました。つまり、これまでに報告されてきた脂肪酸の光吸収は、実は脂肪酸に由来するものではなく、0.1 %以下というわずかな不純物によって引き起こされていたことが明らかになりました。
本研究によって脂肪酸は太陽光をほぼ吸収しないことがわかりました。これは海洋エアロゾルに関するこれまでの定説を覆すものであり、脂肪酸以外の物質が光吸収に深く関与していることを示しています。本研究で得たこの新たな知見によって、海洋エアロゾルでおきている光反応の理解が大きく進み、気候変動の予測精度の向上に貢献することが期待されます。
発表詳細
大学院総合文化研究科のページからご覧ください。
発表者
東京大学 大学院総合文化研究科
齊藤 翔大(修士課程)
寺岡 秀将(修士課程)
沼舘 直樹(特任助教)
小林 広和(准教授)
羽馬 哲也(准教授)
筑波大学 数理物質系化学域
江波 進一(教授)
用語説明
(注1)海洋エアロゾル
エアロゾルとは大気を浮遊している微粒子。粒径が2.5 μm(マイクロメートル。1 μmは1 mmの1000分の1)以下のエアロゾルのことは、とくにPM2.5(Particulate Matter 2.5)と呼ぶことが多い。エアロゾルのなかでも海洋エアロゾルは波しぶきなどで海洋表面から生成するエアロゾルのこと。海洋エアロゾルは地球でもっとも存在量が多い自然起源のエアロゾルである。
(注2)脂肪酸
炭素(C)の原子が鎖状につながった分子で、その鎖の一端に酸の性質を示すカルボキシ基(-C(O)OH)と呼ばれる構造を持っている化合物のこと。
論文情報
Shota Saito, Naoki Numadate, Hidemasa Teraoka, Shinichi Enami, Hirokazu Kobayashi, and Tetsuya Hama*, "Impurity contribution to ultraviolet absorption of saturated fatty acids," Science Advances: 2023年9月20日, doi:10.1126/sciadv.adj6438.
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