反強磁性状態における空間変調した超伝導状態の存在を予言――新たな超伝導の観測に向けて――研究成果
2023年11月28日
東京大学
東京電機大学
理化学研究所
発表のポイント
- 有機分子からなる電気伝導体の理論モデルを用い、特徴的な磁気状態下で、超伝導部分と金属部分が周期的に空間変調した特殊な超伝導状態(FFLO状態)が現れることを発見しました。
- これまで知られてきた強磁場中で安定化するFFLO状態とは異なり、外部磁場を必要としない新しい機構による実現を示しました。
- 本成果は固体物理における磁性と超伝導の研究だけでなく、様々な物理分野で発現するFFLO状態の類似現象の理解を促進することが期待されます。
発表概要
東京大学大学院総合文化研究科の角田峻太郎助教は、東京電機大学の中惇准教授、理化学研究所の妹尾仁嗣専任研究員との共同研究で、κ-(BEDT-TTF)2X (注1)において反強磁性秩序(注2)と超伝導が共存することによって、Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov(FFLO)状態(注3)が実現しうることを明らかにしました。
先行研究で提案されてきたFFLO状態は外部から磁場を印加した状況で実現するものがほとんどでしたが、その場合には磁場によって超伝導状態自体が破壊されたり、物質中に侵入する渦糸(注4)がFFLO状態の観測を困難にすることが課題でした。本研究ではエネルギーバンドのスピン分裂(注5)を伴う特別なタイプの反強磁性体を用いることで、磁場を印加せずにFFLO状態を安定化する方法を示しました。これは渦糸フリーな状況でのFFLO状態の観測を可能にし、またFFLO超伝導の新たな物質基盤を提示するものとなっています。
この研究成果によって今後、様々な物理分野で注目されるFFLO超伝導の研究がさらなる拡がりを見せ、多岐にわたる物理現象の基盤となることが期待されます。
発表詳細
大学院総合文化研究科のページからご覧ください。
用語説明
(注1)κ-(BEDT-TTF)2X :
ビスエチレンジチオテトラチアフルバレン(BEDT-TTF)という有機分子と一価の陰イオンX によって構成される代表的な有機化合物結晶の総称。
(注2)反強磁性秩序:
物質内部の原子が持つ電子のスピンが互いに反対向きに整列する状態。同じ向きに整列すると強磁性秩序(=磁石)となりますが、反強磁性状態での機能を活用する動きがスピントロニクス分野で活発となっています。
(注3)Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov(FFLO)状態:
1964年にFuldeとFerrell、LarkinとOvchinnikovがそれぞれ独立に理論提案を行った特殊な超伝導状態。超伝導はアップスピンとダウンスピンの2つの電子が対(クーパー対)を形成・凝縮することによって起きると考えられています。通常の超伝導状態では重心運動量ゼロのクーパー対が形成されますが、FFLO状態では有限の(ゼロでない)重心運動量を持つクーパー対が形成されます。
(注4)渦糸:
超伝導体に磁束が侵入することによって生じる、局所的に超伝導が破壊された欠陥。外部磁場中の超伝導体では、渦糸が周期的に並ぶ「格子」状態を形成することが知られています。渦糸格子も規則的な空間変調を持つため、FFLO状態との区別が難しいことが分かっています。
(注5)エネルギーバンドのスピン分裂:
波として固体中を伝搬する電子が持つ、波数(波長の逆数)に依存して変化するエネルギーをエネルギーバンドといいます。多くの場合、アップスピン電子のエネルギーバンドとダウンスピン電子のエネルギーバンドは等価で重なり(縮退)を持ちますが、本研究で考える反強磁性状態のような特別な状況ではこれらが等価でなくなり、重なっていたエネルギーバンドに分裂が生じます。
論文情報
○Shuntaro Sumita, Makoto Naka, and Hitoshi Seo, "Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov state induced by antiferromagnetic order in κ-type organic conductors," Physical Review Research: 2023年11月27日, doi:10.1103/PhysRevResearch.5.043171.
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