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囚人のジレンマで搾取が発生する仕組みを解明 - 対等な個人の関係が学習により非対称化 - 研究成果

掲載日:2019年11月6日

 搾取は社会において頻繁に見られる現象である。搾取する側はされる側の利益を犠牲にし、不等な利益を得ている。一方で、搾取される側も、たとえ自力で搾取関係を解消できるのだとしても、その関係を受け入れている。果たして搾取は、環境や個人の能力の差によって生まれるものなのか、それとも対等な個人間においても避けられないものなのか。
 囚人のジレンマゲーム(注1)は社会における行動選択を表現する数理モデルの一つである。相手を裏切ることで自分の利益を追求することができるが、相手に協力することは自分が裏切ることで得る利益よりも多くを相手に与えることができる。この場合、個人間に協力を行う確率に差が存在すると、そこに搾取関係が存在することになる。
 長年の囚人のジレンマにおける研究は、個人が利他行動として対称的な協力関係を築く機構が注目され、非対称な搾取関係の発生する機構は解明されていなかった。今回、東京大学大学院総合文化研究科の藤本悠雅 大学院生と金子邦彦 教授は、個人が相手を学習し、より自分の利益を高めようとする中で、その学習が対称的であるにも関わらず搾取関係が発生しうることを理論的に示した。その過程において、初めは似通っていた両者が、相互学習によって搾取者と被搾取者の役割に分化する、対称性の破れを発見した。
 本研究成果は、両者が自身の利益を追求するだけで搾取が生じうることを示し、社会における搾取の発生起源ついての新たな視点を提供したもので、今後の発展が強く期待される。なお、本研究は特別研究員奨励費(18J13333)および新学術領域研究「進化の制約と方向性」(17H06386)のもとで行われた。

用語解説
(注1)囚人のジレンマゲームとは、社会で頻繁に見られるような、個人が利己か利他行動かの選択を迫られる状況を数理的に表したものである

論文情報

Yuma Fujimoto, Kunihiko Kaneko*, "Emergence of Exploitation as Symmetry Breaking in Iterated Prisoner’s Dilemma," Physical Review Research 誌, doi:10.1103/PhysRevResearch.1.033077.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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