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植物の細胞の中でのコミュニケーション - 葉緑体から核へのシグナル伝達に関わる制御因子の機能を解明 - 研究成果

掲載日:2019年11月18日

 植物が光合成を行う葉緑体は、太古に原始的な藍藻が真核生物に共生(細胞内共生)して誕生しました。 細胞内共生の際に、共生体の多くの遺伝子は宿主の核ゲノムに移行しましたが、葉緑体は独自のDNAゲノムを残しています。 従って、葉緑体の形成には、核ゲノムの葉緑体タンパク質をコードする遺伝子と、 葉緑体ゲノムの遺伝子が協調して発現することが非常に重要です。通常、葉緑体の機能が低下すると、 核にその情報が伝わり、核ゲノムの葉緑体関連の遺伝子発現が低下することが知られています。
しかし、葉緑体の機能が低下しても、核ゲノムの遺伝子発現が低下しない一連の変異体が単離され、 2つのゲノムが共役していないことからgun (genomes uncoupled)変異体と名付けられました。 一連のgun変異体の解析から、ヘム(注4)が葉緑体から核にシグナルとして伝達されるという仮説が提案されましたが、その中心的な役割を担うGUN1タンパク質については、その機能が明らかではありませんでした。東京大学大学院総合文化研究科の清水隆之助教、増田建教授のグループは、University of SouthamptonのMatthew J Terry教授、Ludwig-Maximilians-Universität MünchenのDario Leiser教授、京都大学大学院理学研究科の望月伸悦助教、東京大学大学院総合文化研究科の新井宗仁教授、東京工業大学化学生命科学研究所の田中寛教授、東京農業大学生命科学部の渡辺智准教授らのグループとともに、GUN1の機能解析に取り組み、GUN1がヘム合成酵素の活性を調節すること、またヘムと結合して、そのシグナル伝達を調節することを明らかにしました(図1)。この成果は40年以上の間、謎とされてきた、葉緑体から核へのシグナル伝達の機能を明らかにする第一歩と言えます。本研究の成果は、葉緑体形成のメカニズムの解明に繋がり、葉緑体における光合成機能の改変による、農産物やバイオマスの生産性向上や安定化につながることが期待されます。



図1:(左)暗所ではGUN1はテトラピロール代謝を抑制している。また同時にフェロキラターゼ1(FC1)と結合して、 その活性を活性化するが、シグナルであるヘムと結合することで、シグナルの伝達は抑制されている。 (右)明所では、GUN1は分解され、暗所で合成されたヘムがレトログレードシグナルとして核に伝わる。 核での葉緑体遺伝子の発現が誘導されることで、葉緑体への分化が促進される。
 

用語解説:
注4 ヘム
ポルフィリンに鉄が配位した錯体。動物では血色素とよばれ、ヘモグロビンの補酵素として酸素運搬に関わる。 植物細胞でも合成され、酸化還元反応や電子伝達、細胞内情報伝達など多様な役割を有している。
 

論文情報

Takayuki Shimizu, Sylwia M. Kacprzak, Nobuyoshi Mochizuki, Akira Nagatani, Satoru Watanabe, Tomohiro Shimada, Kan Tanaka, Yuuki Hayashi, Munehito Arai, Dario Leister, Haruko Okamoto, Matthew J. Terry,Tatsuru Masuda, "The retrograde signaling protein GUN1 regulates tetrapyrrole biosynthesis," Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, doi:10.1073/pnas.1911251116.

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