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プラスチックの硬さに潜むシンプルな性質を世界で初めて明らかに。 ―高分子ガラスにおける分子振動の正体とは?― 研究成果

掲載日:2019年12月23日

大阪大学大学院基礎工学研究科大学院生の友重 直也さん(博士前期課程2年)、金 鋼准教授、松林 伸幸教授の研究グループは、東京大学の水野 英如助教、筑波大学の森 龍也助教との共同研究により、ガラス※1状高分子における分子振動※2の正体を、コンピュータシミュレーションを用いた理論研究により明らかにしました。

高分子の性質を正しく理解することは、様々な用途に用いられるプラスチック製品を開発する上で本質的なことです。しかしながら、たくさんの高分子の鎖が集まるとなぜ窓ガラスと同じように硬くなるのか、その性質の分子レベルからの解明は今までありませんでした。

今回共同研究グループは、高分子鎖の集合体がガラスになる過程を分子動力学法と呼ばれるコンピュータシミュレーションにより再現し、その性質を詳細に解析しました(図1)。ずり変形※3と呼ばれる歪みを加えて硬さを計測したところ、高分子鎖1本が硬くなるにつれて集合体全体も硬くなりました。しかし、系全体の硬さはガラス特有の非アフィン変形※4の効果に起因して、鎖1本の硬さに対して相対的に極めて柔らかくなることを明らかにしました。また、ボゾンピーク※5と呼ばれるほとんどのガラス物質で見られる振動励起が、高分子ガラスでもテラヘルツ波※6領域で観測されることがわかり、その周波数がずり変形に対する硬さの指標である剪断弾性率のみによって説明される関係式を得ることに、世界で初めて成功しました(図2)。このことはテラヘルツ波を用いてプラスチックのずり変形のしにくさなどの力学特性を非破壊・非接触に検査できることを意味し、応用上も重要な知見となります。

本研究成果は、英国シュプリンガー・ネイチャーが出版する総合科学誌「Scientific Reports」に、2019年12月20日(金)午後7時(日本時間)にオンラインで公開されました。

 

用語解説:
※1 ガラス:物質が冷却され、結晶のように規則正しく分子を配列させるのではなく、不規則な分子配列のまま固体的な状態に達したもの。ガラス転移温度とは溶融状態からガラス状態への転移が起こる温度を指す。
※2 分子振動:高分子鎖の分子同士の結合はバネでつながれているとみなすことができ、分子間の距離や角度が振動すること。
※3 ずり変形:歪みによって物体の形状を変化させることを変形と呼ぶ。特に、物体のある面と平行方向にすべらせるように歪みを加えることをずり変形と呼ぶ。
※4 非アフィン変形 :物体の変形において、歪みの前後で分子の相対的な位置が変化しないことをアフィン変形と呼び、歪みの前後で分子の位置も方向も異なる場合を非アフィン変形と呼ぶ。
※5 ボゾンピーク :ガラスにおいて物質によらず普遍的に観測される振動励起のこと。分子が規則的に配列している結晶における振動状態密度はデバイ則と呼ばれる理論で説明されるが、分子配列が不規則なガラスにおいてはデバイ則よりも過剰な振動状態が観測される。
※6 テラヘルツ波:10の12乗ヘルツの振動数を持つ電磁波のこと。携帯電話などに用いられるギガヘルツ帯の電波と可視光の中間領域にあり、携帯電話の性質と可視光の物体識別の性質を併せ持つ。近年、テラヘルツ波の発生・検出技術が確立しつつあり、例えば空港のセキュリティ技術や建造物・美術品等の非破壊内部検査などへの応用が期待されている。
 

論文情報

Naoya Tomoshige, Hideyuki Mizuno, Tatsuya Mori, Kang Kim, and Nobuyuki Matubayasi, "Boson peak, elasticity, and glass transition temperature in polymer glasses: Effects of the rigidity of chain bending," Scientific Reports(オンライン), doi:10.1038/s41598-019-55564-2.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く, UTokyo Repository別ウィンドウで開く)

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