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成長に必須な物質の排出でかえって細胞の成長は促進されうる - 細胞の「断捨離」メカニズムの発見 -研究成果

掲載日:2020年1月29日

 微生物は栄養成分を取り込んで成長する一方で、たくさんの代謝物を環境中へ漏らしている。単なる毒や細胞成長に不要なゴミだけでなく、細胞成長にとって不可欠な代謝物すらも漏出しているのだが、これは細胞にとって一見不利益でしかなく、細胞が必須代謝物を漏らさぬように進化してこなかった理由は未知であった。また、漏れ出た必須代謝物は他の細胞種にとっても有用であり、漏出代謝物のやりとりが多様な種からなる生態系を形作るため、このような漏出の進化的起源の理解は、微生物生態系の理解や制御のためにも重要である。
 今回、東京大学大学院総合文化研究科の山岸純平大学院生と金子邦彦教授、同大学院理学系研究科の斉藤稔助教は、細胞成長を粗視化した単純な数理モデルを、計算機シミュレーションを用いて解析することで、成長に不可欠な代謝物の漏出によってその細胞の成長率が上昇しうることを示した。これは、定常的に成長する細胞において非線形な化学反応群と体積成長に伴う濃度希釈の間のバランスが要請されることの帰結であり、多くの化学成分からなる複雑な代謝反応ネットワークにおいてはありふれた振る舞いとなることも分かった。
 本研究成果は、細胞のように成長するシステムにおける一般的な要請の帰結として必須成分の漏出が成長を促進できることを示し、環境中に多様な代謝物を漏らす微生物の代謝系とそのやりとりの仕組み、そして生態系における微生物多様性の起源について新たな視点を提供したもので、今後の発展が強く期待される。なお、本研究は科学研究費基盤(S)(15H05746)および新学術領域研究「進化の制約と方向性」(17H06386)のもとで行われた。

論文情報

Jumpei F. Yamagishi, Nen Saito*, Kunihiko Kaneko*, "Advantage of leakage of essential metabolites for cells," Physical Review Letters, doi:10.1103/PhysRevLett.124.048101.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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