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脊髄損傷者の上肢機能は健常者よりも優れる ~脳-身体の適応による健常者を超える能力の獲得~ 研究成果

掲載日:2021年2月2日

 事故や病気により脊髄を損傷した方(脊髄損傷者)は、損傷された脊髄の高さ(損傷高位)以下において麻痺を呈するため、損傷高位より上位の残存機能を用いて日常生活に適応することが求められます。しかし、これまでの脊髄損傷者を対象とした研究は、歩行能力の再獲得や麻痺肢の回復など、損傷高位以下の身体部位を対象とした研究がほとんどであり、損傷高位より上位の残存機能、特に上肢運動機能がどのように変化するかという点に関しては明らかにされていませんでした。
 東京大学大学院総合文化研究科の中澤公孝教授、博士課程の中西智也大学院生(日本学術振興会特別研究員DC1)らによる研究グループは、昨年、上肢の力調節能力を脊髄完全損傷者(損傷高位:胸髄以下)、他の疾患による車椅子使用者、健常者の3群を対象として行った調査で、脊髄完全損傷者の力調節能力が特異的に高いことを発見しました。調査結果では、脊髄完全損傷者の力調節能力が他の疾患による車椅子使用者に比べて特異的に高かったのは、日常での使用頻度が増加したことによる機能向上のみでなく、背景に何らかの神経系の適応が生じていることが示唆されていました。
 本研究では、脊髄完全損傷者の脳にどのような適応が生じているか調べるため、力調節中の脳活動をfunctional MRIを用いて計測し、さらに脳構造・ネットワーク指標の計測を行いました。その結果、健常者と比較すると、脊髄完全損傷者は力調節を行っている際の脳活動が小さいなど神経活動の効率化が生じていると考えられ、さらに、運動感覚統合を司る上頭頂小葉の脳容積や、一次運動野-上頭頂小葉間、一次運動野-小脳間の機能的ネットワークが力調節に有利な適応をしている可能性があることが分かりました。
 障がい者スポーツにおいて、脊髄損傷者は上肢で車椅子を巧みに操作したりパワーリフティングでは健常者を超える記録を残すなど、健常者以上の能力を発揮することがあります。これらは日頃の練習の成果であると同時に、脊髄損傷者が神経学的に上肢運動機能を高めやすい性質を持っていることが背景にあると考えられます。脊髄損傷後のリハビリテーションにおいて、損傷高位以下の機能を再獲得することは、再び受傷前と同じ生活を送ることにつながるため、重要であることに疑いはありません。一方、残された上肢機能の潜在能力を最大限に引き出すことで、スポーツや芸術において人々を魅了する技術や作品を見せたり、就業場面においても巧みな作業を行うことが可能となり、その結果、受傷前の姿を志向するばかりではなく、新しい自己を築き新しい人生を歩むことに対して前向きになることが考えられます。本研究グループは、そのような姿もリハビリテーションの目標の選択肢となりうることを提案しました。
 本研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究A)「パラリンピックブレイン-ヒト脳の機能的・構造的再編能力」(研究代表者:中澤公孝)の一環として行われました。
 本研究成果は、リハビリテーション分野で世界第2位に位置付けられている米国の学術誌「Neurorehabilitation and Neural Repair」(Sage Publications)に1月29日付でオンライン掲載されました。

 

論文情報

Tomoya Nakanishi, Kento Nakagawa, Hirofumi Kobayashi, Kazutoshi Kudo, Kimitaka Nakazawa*, "Specific brain reorganization underlying superior upper limb motor function after spinal cord injury: A multimodal MRI study," Neurorehabilitation and Neural Repair: 2021年1月29日, doi:doi.org/10.1177/1545968321989347.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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