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双方向アバター活用の心理相談サービス「KATAruru(かたるる)」の開発と実装 ―社員のセルフデザイン力に基づく健康経営の発展に向けて― 研究成果

掲載日:2021年5月24日

  • 発表者
下山 晴彦(東京大学大学院教育学研究科 総合教育科学専攻 臨床心理学コース 教授)
 
  • 発表のポイント:
  •  
  • ◆東京大学大学院教育学研究科の下山晴彦研究室は、パーソルワークスデザイン株式会社との共同研究によって、バーチャル上で誰でもどこからでも「心の専門家」に気軽に相談できる双方向アバターを活用した心理相談システム「KATAruru(かたるる)」を開発した。
  • ◆KATAruruを81名の会社員に実施し、アバターが相談抵抗感を軽減し、そこでの自己語りが主体的なセルフデザイン力を促すことを明らかにし、その有効性を確認した。
  • ◆KATAruruを中核とするアバター心理相談サービスの実装は、コロナ禍で悪化しているメンタルヘルス改善だけでなく、働く人の主体性を尊重する健康経営イノベーションの促進に繋がると期待される。
 
  • 発表概要
 日本の産業界では、心身不調による就業中の生産性が低下する「プレゼンティズム」が問題となっている。昨今では、コロナ禍によるリモートワークによって、社員は新たな心理的ストレスを経験しており、社員の心身不調の深刻化が懸念されている。
 東京大学大学院教育学研究科(研究科長:小玉重夫)の下山晴彦研究室は、パーソルワークスデザイン株式会社(本社:東京都豊島区)と共同で、心身不調を感じた場合、早期に「心の専門家」に相談できるアバターを用いた心理相談システム「KATAruru(かたるる)」を開発し、アクション・リサーチ(注1)を実施した。その結果、単回の心理相談であっても相談への抵抗感を軽減し、被受容感に基づく自己語りを促進する効果があることを明らかにした。その一方で、問題の解決には限界があることも見出された。研究結果から、目的と回数の異なる2種類の相談経路を設定し、自己を安心して語る場と専門的な観点によって問題を整理する場という、柔軟な利用が可能な心理相談サービスを設計し、実装することとした。
 
  • 発表内容
  • 研究の背景
 プレゼンティズムに代表されるメンタルヘルスの問題による労働生産性の低下は、大きな経済的損失につながっている。この問題の背景には、心身不調を抱えているのにもかかわらず、相談のための時間や交通費などのコストの心配に加えて相談することへの心理的抵抗があり、利用を回避する「サービス・ギャップ」と呼ばれる現象がある。
 下山研究室では、この「サービス・ギャップ」と呼ばれる問題の解決に取り組んできた。これまでの研究によって話し手の表情や動きを反映しながら素顔を隠すことができる「アバター」は、伝達可能な「非言語情報の豊富さ」から、信頼関係の形成と心理相談の受けやすさの向上に有効であり、相手の顔を直接見ないで話せるという「匿名性の高さ」から心理的負担の軽減に有効であることを明らかにしてきた。
 そこで、下山研究室は、主要事業の一つとして企業の健康経営支援を実施するパーソルワークスデザイン社と共同して、バーチャル上で誰でもどこからでも「心の専門家」に気軽に相談できる双方向アバターを活用したオンライン心理相談サービスの開発を進めてきた(注2)。
 
  • 研究内容
 本研究で開発した心理相談システム「KATAruru(かたるる)」では、双方向アバター(注3)を用いてバーチャル上で心理相談を提供することにより、お互いのプライバシーを守りながら、円滑なコミュニケーションを実現し、誰でもどこからでも気軽に心理相談を受けることが可能である。その効果を検討するため、KATAruruを会社員に実施し、アクション・リサーチを実施した。
 KATAruruは、顔認識センサーを搭載し、利用者の表情や頷きを反映するほか、ジェスチャーボタンを使うことで心理相談において重要な非言語表現(頷きや沈黙で考える姿勢)を表現できる(図1)。KATAruruを用いて、心理専門職(公認心理師・臨床心理士)による、社員に対する最大40分の心理相談を実施し、内81名からフィードバックを得るとともに、社員の相談過程の会話分析を行った。 
 
 
 
 1. アバターのイメージ例(相談者、心理専門職それぞれ5パターンのアバターが選択可能)
 
 事後アンケートの結果、70%以上が「気持ちを受け止めてもらえた」「本音で話せた」と回答した。また、約64%が「悩みを語ることへの抵抗感が軽減された」と回答し、アバターによる共感的な心理面接が、自己を語る体験を促進するものであることが示された。さらに、匿名性により、相談への心理的抵抗が軽減し、初期段階で問題の根幹となる話題が語られ、主体的に問題に取り組む自己デザイン力が促されることが示唆された。一方、「悩みが整理された」と回答した者は51%にとどまった。この背景には、単回では問題の整理まで到達することが難しかった事例や、具体的な助言を得るという利用動機の強い社員が一定数存在したことがある。したがって、問題の共感的理解を土台としながら、問題の整理につながる相談経路を設定する必要性が見出された。
 以上の研究成果に基づき、「気軽に相談」と「本格的相談」という目的の異なる2種類の相談形式を設定し、利用しやすいサービス設計を実現した(図2)。「気軽に相談」は、1回30分以内で、悩みや困りごと、気持ちなどを自由に話すことを目的とし、「本格的相談」は、1回50分以内で、より専門的な観点から問題を整理することを目的とする。これらの経路は、まず、自分の体験を傾聴されながら安心して語ること、次に、自分の問題を客観的な視座から理解すること、そして、必要に応じてさらなる専門的サービスを利用すること、という段階的な相談の発展を後押しするものである。
 

 
2. アバター心理相談「KATAruru(かたるる)」の相談オプション
 
  • 社会的意義と今後の展望
 本研究は、アバターを通した心理相談体験について、実際の相談事例から知見を得た初の研究である。研究成果に基づき、企業における双方向アバターによる心理相談サービスの実用化に至った。長きにわたってサービス・ギャップが問題となっている日本の産業界にとって、本サービスは心理専門職へのアクセスを容易にし、利用者が主体的に相談に訪れる組織土壌を創る、画期的なサービスである。
 今後は、双方向アバターによるコミュケーションの特質を分析し、目的の異なる心理相談を実施するための専門技能の把握と心理専門職の育成を目指す。加えて、本サービスは、社員が働き方を主体的にデザインするための「セルフモニタリング」システムと連携して運用する予定である(注4)。
 「セルフモニタリング」と「アバター心理相談」の統合により、社員が自分の健康関連情報に自らアクセスし、気軽に相談に訪れることを支えるトータルサービスを実現し、社員の主体的なセルフデザイン力を尊重する革新的健康経営の発展に寄与することを目指すことを最終な目的とする。

 
  • 問い合わせ先
(研究に関するお問い合わせ)
東京大学大学院教育学研究科
特任助教 北原 祐理(きたはら ゆうり)
電話:03-5841-8068
Mail:ykitahara@g.ecc.u-tokyo.ac.jp
 
(サービスに関するお問い合わせ)
パーソルワークスデザイン株式会社
人事ソリューション本部人事支援部クライアントサービス課
電話:03-6907-4481
お問い合わせフォーム:https://sub.persol-wd.co.jp/inquires/
 
  • 用語解説
(注1)アクション・リサーチ:社会が抱えるさまざまな問題に対して、研究者と個々の問題の当事者がともにそのメカニズムや解決方策を考え、検証して、検証結果を解決方策や社会生活に還元しながら問題解決を目指す調査活動手法のこと。
 
(注2)『バーチャル上で「心の専門家」と話せる心理相談サービスの実装へ:気軽にアクセスできる新しいオンライン支援のかたち』2020年6月15日
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0110_00054.html
 
(注3)双方向アバター:相談者と心理専門職がともにアバター(ユーザーの分身となるキャラクター)になり、アバターを介して音声通話を行うシステムを指す。顔の向き、大まかな表情、瞬きなどの相互の動きは、使用する端末の内蔵カメラによって認識され、画面上のアバターの動きに反映される。
 
(注4)『働く人の「セルフデザイン力」を育てるモニタリングシステムの実装へ:心身の状態への気づきと主体的な働き方を支援するポストコロナ時代の健康経営』2021年3月22日
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0110_00001.html
 

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