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バーチャル上で「心の専門家」と話せる心理相談サービスの実装へ 気軽にアクセスできる新しいオンライン支援のかたち 研究成果

掲載日:2020年6月15日

1.発表者:
下山 晴彦(東京大学大学院教育学研究科・総合教育科学専攻・臨床心理学コース 教授)

2.発表のポイント:
 下山研究室は、コミュニケーション媒体の比較研究によって、心理相談への敷居を下げる方法として、話し手の表情や動きを反映する「アバター」を活用したオンライン支援の有効性を実証し、その研究成果を実装するシステム開発をパーソルワークスデザイン株式会社および株式会社UsideUと共同でスタートしました。
 
 バーチャル上の会話により、お互いのプライバシーを守りながら、円滑なコミュニケーションを実現し、どこでも、気軽に、安心して心理支援を受けることを可能にします。
 
 深刻化する企業のメンタルヘルスに対して、心理相談への敷居を下げることで、問題が悪化する前に専門的サービスにつながることを促し、休職や生産性低下による経済的損失を防ぐことができます。

3.発表概要:
 企業におけるメンタルヘルスの問題が深刻化している背景には、相談を必要とする人が、専門的なサービスを利用できない「サービス・ギャップ」の問題があります。東京大学大学院教育学研究科(研究科長:秋田喜代美)の下山研究室は、オンライン心理相談が、場所や時間の制約を受けないことから、サービス・ギャップの解消に有効であることを実証してきました。さらに、異なる媒体による心理相談の効果を比較検証する中で、話し手の表情や動きを反映しながら、素顔を隠すことができる「アバター」を用いた心理相談が、「非言語情報の豊富さ」および「匿名性の高さ」という2つの観点から、安心して利用できるオンライン心理相談サービスに有効であるという研究成果を得ました(文末図1参照)。
以上の研究成果と、心理相談専門職(公認心理師および臨床心理士;以下、心理職)の育成に携わってきた知見を活かし、下山研究室は「アバター」を活用したオンライン心理相談サービスの実装を開始しました。本プロジェクトは、パーソルワークスデザイン株式会社(本社:東京都豊島区)および株式会社UsideU(本社:東京都中央区)と共同で行います。本プロジェクトにより、相談が必要な人と心理職の距離を近づけ、問題が悪化する前に、気軽に心理相談を利用できる社会を実現します。

4.発表内容:
[1] プロジェクトの背景
 働き方改革を筆頭に、企業ではメンタルヘルス対策が進められています。メンタルヘルスの問題による休職や労働生産性の低下は、大きな経済的損失につながります。働く人のメンタルヘルスの悪化の背景には、時間や交通費などのコストやプライバシーの心配から、心理相談への敷居が高く、来談につながらない問題があります。東京大学大学院教育学研究科(研究科長:秋田喜代美)の下山研究室は、この「サービス・ギャップ」と呼ばれる問題の解決に取り組んできました。

 下山研究室は、場所や時間の制約を受けないオンライン心理相談が、サービス・ギャップの解消に有効であることを実証し、様々なアプリケーションを開発してきました。さらに、電話、テレビ会議システム、バーチャル空間などの媒体を用いた心理相談の効果について比較検証を行なった結果、話し手の表情や動きを反映しながら、素顔を隠すことができる「アバター」が、サービス・ギャップの問題を解決しうるという研究成果を得ました。「アバター」は、伝達可能な「非言語情報の豊富さ」から、信頼関係の形成と心理相談の受けやすさの向上に有効であり、相手の顔を直接見ないで話せるという「匿名性の高さ」から、心理的負担の軽減に有効であることが明らかになりました。

 以上の研究成果を元に、下山研究室は「アバター」を活用したオンライン心理相談サービスの実装を開始しました。「アバター」を用いて、バーチャル上で心理相談を提供することにより、お互いのプライバシーを守りながら、円滑なコミュニケーションを実現することができます。そして、働く人が、どこでも、気軽に心理相談を受けられる体制づくりをめざします。

[2] プロジェクトの目的
 本プロジェクトでは、働く人のメンタルヘルスの問題に対し、「アバター」を介したオンライン心理相談システムを解決策として、利用者の心理的障壁の解消と相談へのアクセスを実現することを目的とします。システムの社会実装にあたり、企業における健康支援サービスに取り組んできたパーソルワークスデザイン株式会社と、アバターを用いたバーチャルシステム「TimeRep(タイムレップ)」の開発を行う株式会社UsideUの2社と共同します。さらに、下山研究室のもつ臨床心理学的研究に基づく知見、および心理職の専門教育を受けた人材を活かして、心理相談マニュアルおよび研修システムを構築することで、安全かつ効果的な「アバター心理相談サービス」の実装をめざします。

[3] アバター心理相談サービスの内容
 相談者と心理職の双方がアバターを利用し、バーチャル上で心理相談を行います。下山研究室の研究成果に基づくと、相談者と心理職の双方で以下のメリットが期待できます。

【相談者のメリット】
• 自身の姿を見せず相談ができるため、心理的ハードルが軽減できる
• 環境を気にせず、どこからでも相談が可能になる
• 相手もアバターであることから、自己開示がしやすくなる

【心理職のメリット】
• 相談者から過度の感情移入をされる心配が軽減される
• 生活空間が映らないため、相談者と心理職の境界を保つことができる
• 勤務地を限定する必要がなく、テレワークでの心理相談が可能になる

 バーチャル技術の活用により、相談につながりやすい環境を提供することができます。オンラインで早期介入をしていくことで、重症化予防を図ります。また、心理職が働きやすい環境を整えることで、例えば、育児休暇中の心理職も働くことができ、良質なサービスの安定供給につながります。「アバター心理相談サービス」は、今夏リリースを予定して開発を進めています。

[4] プロジェクトの概要
下山研究室が、「アバター」を用いたオンライン心理相談システムのデザインを構築します。サービス設計に向けては、パーソルワークスデザイン株式会社(注1)が積み上げてきた健康支援のノウハウを活用し、それに合わせたアバター通信システムの開発を株式会社UsideU(注2)が行います。加えて、下山研究室がもつ知見を元に、心理相談マニュアルおよび教育プログラムの開発を行い、専門性の高いサービスの提供をめざします。
 さらに、下山研究室の主導のもと、継続的な効果検証を行います。パーソルワークスデザイン株式会社がフィールド確保を行い、検証の結果得られた改善点について、株式会社UsideUがシステムの再調整を行います。以上のような開発と効果検証を繰り返しながら、気軽にアクセスできる良質な「アバター心理相談サービス」の提供をめざします。

―――――――
注1)パーソルグループのパーソルワークスデザイン株式会社は、BPO(Business Process Outsourcing)のプロフェッショナルとしてあらゆる業種の一般事務から情報処理、システム設計、ソフトウェア開発、コールセンター、ヘルプデスク、保健指導、採用代行などのBPOサービスを提供しています。

注2)株式会社UsideUは、[1]遠隔システムによってスタッフの時間有効化に貢献しながらも、親近感のあるアバターで対面よりも効果の高い販売・案内・接客を実現する事業者向けサービス「TimeRep(タイムレップ)」(旧名:コラボロイド®)、 [2]カレンダーをSNSやWebプロフィールに公開することで、誰もが隙間時間を使って相談予約を受けることや、レッスンやセミナーを告知・管理することを可能にする、個人・事業者向けサービス「TimeHut(タイムハット)」を提供しています。

5.問い合わせ先: 
(心理相談サービスに関するお問い合わせ)
東京大学大学院教育学研究科
特任助教 北原 祐理(きたはら ゆうり)
電話:03-5841-8068
Mail:gclclipsy@gmail.com

(サービス内容全般に関するお問い合わせ)
パーソルワークスデザイン株式会社
総務部 広報担当
電話:03-6907-4481
Mail:pwd-pr@persol.co.jp

(アバターシステムに関するお問い合わせ)
株式会社UsideU(ユーサイドユー)
広報担当 影山 鈴華(かげやま りんか)
電話:050-5329-8254
Mail:corp@usideu.com

6.用語解説:
• アバター心理相談サービス
相談者と心理職がともにアバターとなり、それぞれのアバターを介して音声通話を行う。相互の動きは、使用する端末(パソコン、タブレット、スマホ)に内蔵されたカメラにより認識され、アプリ内のアバターに反映される。アバターが反映する具体的な動きは、眉の動き、顔の傾き、体の傾きである。アバターの口の動きに関しては、マイク認識した心理士(師)の声に合わせてアバターの口が動く。現段階では、アバターの瞬きはあらかじめアプリで設定された頻度で行われる。また、アバターの目線は常に通信相手に向くように設定されている。より円滑で自然な意思疎通を行うためにアバターを改修していくとともに、心理職は、このようなアバター同士の会話を通して相談者にオンラインで心理相談を提供する。

7.添付資料:






図1. 「アバター」を使ったオンライン心理相談システムのイメージ図
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