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東京大学史料編纂所と神奈川県立金沢文庫の連携による金沢文庫文書データベースのリニューアル公開記者発表

掲載日:2022年6月1日

発表者

【東京大学史料編纂所】
  本郷 恵子 (所長)
  西田 友広 (准教授)
  山田 太造 (准教授)
  井上 聡  (准教授)
【神奈川県立金沢文庫】
  湯山 賢一 (文庫長)
  高徳 浩二 (副文庫長)
  向坂 卓也 (学芸課長)
  貫井 裕恵 (学芸員)
 

発表の概要

 東京大学史料編纂所は、2021(令和3)年10月に締結した「歴史的史料情報の共有・利活用促進に関する覚書」に則って、神奈川県立金沢文庫(注1)に協力し、同文庫が発信する「金沢文庫文書データベース」の大幅リニューアルを実現した。本リニューアルは令和4年6月1日より実施となる。
 金沢文庫文書(4,149点)は、真言律宗別格本山称名寺(横浜市金沢区)に伝来・所蔵されており、現在、神奈川県立金沢文庫に管理が委ねられている。平成28年(2016)に「称名寺聖教(しょうみょうじしょうぎょう)」(16,692点)とともに国宝に指定され、日本中世の政治、経済、文化、対外関係などを明らかにする上で貴重な古文書群となっている。
 本データベースは2020(令和2)年3月より公開されていたが、画像表示や検索機能に脆弱な点があったため、今回大幅なリニューアルを実施した。リニューアルにあたっては、東京大学史料編纂所が、歴史情報処理システム(注2)の構築で培ってきた経験をもとに、多面的な協力を行った。
●データベースのURL:https://kanazawabunko-db.pen-kanagawa.ed.jp/
 
 

発表内容

 神奈川県立金沢文庫では、国宝「金沢文庫文書」のデジタルアーカイブ化を推進し、令和2年3月より、金沢文庫文書データベースとして広くWeb公開に踏み切った。こうした取り組みについては、学術界や一般市民より高い評価を得たところであるが、昨年度から始まった東京大学史料編纂所との連携事業の一環として、さらなる機能向上を目指して全面リニューアルを企図した。具体的には、検索機能の大幅充実や、画面の表示方法の改善をすすめると同時に、東京大学史料編纂所データベースとの双方向のリンクを実現することで、関連する歴史情報を容易に参照できる環境を整えることを目指した。また国際的なデジタルアーカイブの枠組みであるIIIF(トリプルアイエフ)(注3)に対応したことで、快適な閲覧環境を実現するのみならず、その汎用性を生かして今後のさらなる機関連携や機能強化が期待されるに至った。
 
【データベースリニューアルの概要】
[1]公開データの拡充
 リニューアルを機に公開文書数を倍増させ、1,024件の古文書を公開した。今後さらなる公開を進めて、史料群全体を公開の予定である。

[2]検索機能の向上や結果画面の表示方法を改善
 キーワード検索や和暦年月日による検索などを充実させることで、多様な検索ニーズに対応した。検索結果画面も大幅に更新され、結果表示画面上で検索ワードが明示されるなど、使いやすさの向上を図った。検索結果を年月日順に並べかえるソート機能なども付加している。見たい古文書をこれまでよりスピーディーに見つけ、快適に閲覧できる環境を整えた。

[3]スマートフォンやタブレットでの閲覧環境を改善
 データベース画面をレスポンシブルデザインへと切り替え、ユーザーがスマートフォンやタブレットでアクセスした際に、デバイスに応じて最適なレイアウトを表示することが可能になった。

[4]東京大学史料編纂所データベースとの連携
 東京大学史料編纂所が公開する日本古文書ユニオンカタログデータベース(注4)と双方向でリンクを実現した。同データベース収載の情報とリンクすることで、当該史料の収録史料集など、さまざまな情報にアクセスできる。また今後、同所の歴史情報処理システムとより密接な連携を進めることで、多様な情報を参照できる環境を目指している。

[5]IIIF(トリプルアイエフ)への対応
 デジタルアーカイブ間において画像を相互利用するための仕様であるIIIF(International Image Interoperability Framework)を導入することで、さまざまな機関が公開する史料画像との比較対象が可能になった。あわせて拡大・縮小といった画像表示機能も著しく向上したことを述べておきたい。

[6]JDCat(人文学・社会科学総合データカタログ)との連携
 東京大学史料編纂所とともに、日本学術振興会が推進する「人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築推進事業」(注5)に協力することで、同事業が公開するJDCat(人文学・社会科学総合データカタログ)に本データベース搭載のメタ情報を反映させてゆく予定である。人文学に係るデータを分野や国を超えて、共有するための基盤形成に寄与することは、大きな意義をもつものと確信している。

【本取組の意義について】

 今回のデータベースリニューアルは、単なるデータベース機能向上にとどまるものでなく、歴史情報の共有・利活用の在り方を刷新するものであると言える。もとより郷土の貴重な文化財を県民に広く供するということが最大の目的ではあるが、この度の抜本的改修は金沢文庫古文書の国宝としての学術的意義をさまざまに喧伝するものになると考えている。正確なテキストや関連メタ情報の機能的な提供は言うまでもないが、IIIFの導入による汎用的な史料画像の提供は、同様の仕様を有する国立国会図書館や東京国立博物館など日本の代表的デジタルアーカイブとの、シームレスな相互参照を可能にしている。
 東京大学史料編纂所歴史情報処理システム(SHIPS)との双方的なリンクが実現することで、同所が明治以来120年以上にわたり蓄積してきた歴史知識情報との共有が図られることになる。日本中世を知るうえで不可欠な古文書群と、さまざまな知識が融合することによって、研究の大いなる進展に裨益すると期待している。
 史料編纂所とともに、日本学術振興会が推進する「人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築推進事業」に協力することで、金沢文庫文書データベースのメタ情報は、同事業が構築をすすめる大規模データカタログJDCatへと連結されることが予定されている。国家的な学術情報の集積作業に参画することで、金沢文庫文書がもつ意義や意味は、歴史関連分野のみならず、専門や国を超えた領域においても認識されることになると考えている。

【リニューアルにかかる協力機関・事業】
 真言律宗別格本山称名寺 
 科学研究費 基盤研究(A)「断片的史料情報の集積と歴史知識情報の相互参照体制の確立による新たな史料学構築研究(21H04356)」(研究代表者:西田友広・東京大学史料編纂所准教授)
 日本学術振興会(JSPS)人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築推進事業(JPJS00219217592)

 

用語解説

(注1)神奈川県立金沢文庫
金沢文庫は鎌倉時代のなかごろ、北条氏の一族(金沢北条氏)の北条実時が武蔵国久良岐郡六浦荘金沢(現、横浜市金沢区)の邸宅内に造った武家の文庫である。その創設の時期はあきらかではないが、実時晩年の建治元年(1275)ごろと考えられている。蔵書の内容は政治・文学・歴史など多岐にわたり、収集方針はその後も顕時・貞顕・貞将の三代にわたって受け継がれ、蔵書の充実がはかられた。金沢北条氏は元弘3年(1333)、鎌倉幕府滅亡と運命をともにした。以後、一部の蔵書は散逸しつつも、その多くは隣接する菩提寺の称名寺によって管理され、近代に至った。現在の金沢文庫は昭和5年(1930)に神奈川県の施設として復興したもので、平成2年(1990)から新たに歴史博物館として活動している。
 
(注2)東京大学史料編纂所歴史情報処理システム
通称SHIPS。1984年から史料集編纂事業を通じて生成した諸情報をデジタルデータとして蓄積している。1996年からWWWに接続することで、Web経由による検索サービスを本格化させた。現在約30種の公開データベースを擁しており、史料デジタル画像を約2000万点、各種データを700万点以上有している。日本史研究を行ううえで必須のインフラとなっており、年間約800万件のアクセスがある。
 
(注3)トリプルアイエフ
デジタルアーカイブなどに収録された画像を相互運用するための国際的な枠組。IIIFに対応して作成された画像は、データベースの差異などに制約されることなく、IIIF対応ビューアーから一律に扱うことができる。史料画像を組織や機関の壁をこえて汎用的に利活用できる画期的な仕様と言える。
 
(注4)日本古文書ユニオンカタログデータベース
SHIPS配下のデータベースの一つ。西暦1600年(関ヶ原の戦いのあった年)以前に日本列島上で用いられた古文書を網羅することを目的とする。1985年度より構築が開始され、2008年度からは他機関サイトへのリンクも実現している。データ数は80万件余。
 
(注5)人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築推進事業
日本学術振興会の事業のひとつ。人文学・社会科学研究に係るデータを分野や国を超えて共有・利活用する総合的な基盤を構築することにより、研究者がともにデータを共有しあい、国内外の共同研究等を促進することを目指している。拠点機関として、人文学では東京大学史料編纂所がただ一つ認定されている。
 

お問い合わせ先

東京大学史料編纂所 IR・広報室
TEL 03-5841-1615
E-mail ir*hi.u-tokyo.ac.jp(*を@に変更して下さい)

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