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滋賀県立琵琶湖博物館・東京大学史料編纂所の連携による 史料画像のWeb公開記者発表

掲載日:2021年12月8日

発表者

高橋 啓一(滋賀県立琵琶湖博物館 館長)
橋本 道範(滋賀県立琵琶湖博物館 専門学芸員)
島本 多敬(滋賀県立琵琶湖博物館 学芸員)
本郷 恵子(東京大学史料編纂所 所長)
山田 太造(東京大学史料編纂所 准教授)
木下 竜馬(東京大学史料編纂所 助教)

発表のポイント

  • 滋賀県立琵琶湖博物館所蔵の「東寺文書」(107通、重要文化財)を、東京大学史料編纂所のデジタルアーカイブズを通して広くWeb公開することとなった。
  • 本文書は「東寺百合文書」(国宝、ユネスコ「世界の記憶」)と元来一体のものであり、中世の政治・社会や過去の気候変動をさぐる上で重要である。精細なデジタルカラー画像が公開されるのは今回が初。
  • 歴史学以外の専門家や市民が容易に史料画像にアクセスできるようになったことで、文理融合的な研究や教育の場などでの積極的な活用が期待できる。

発表概要

 ・滋賀県立琵琶湖博物館(注1)は、かつて京都の東寺に所在していた古文書を所蔵しており、重要文化財の指定を受けている。この度、この文書のデジタル画像、および目録や本文等の情報を、史料編纂所のデジタルアーカイブズを通して、広くWeb公開することとなった。

 ・「日本古文書ユニオンカタログ」(注2)と「Hi-CAT Plus」(注3)というふたつのデジタルアーカイブズから、いつでも、だれでも検索・閲覧することができるようになる。紙媒体の史料集では難しかった文書の公開が一挙に進展することで、中世の政治・社会や過去の気候変動などについての研究の深化に寄与することが見込まれる。また、歴史学以外の専門家や市民が容易に史料画像にアクセスできるようになることから、文理融合的な研究や教育の場などでの積極的な活用が期待できる。  

発表内容

「東寺文書」について

 この度、滋賀県立琵琶湖博物館が所蔵する古文書群である「東寺文書」(重要文化財。以下、本文書)の画像を、東京大学史料編纂所のデジタルアーカイブズを通して、広くWeb公開することとなった。精細なデジタルカラー画像が公開されるのは初である。

 本文書は、江戸時代に京都の東寺を離れた史料群であり、滋賀県内個人の所蔵を経て滋賀県立琵琶湖博物館が所蔵することとなった。平安時代から江戸時代にいたる107通の史料からなり、中世の東寺領経営にかかわる文書が多い。

 これらは、京都府立京都学・歴彩館が所蔵する「東寺百合文書」(約25,000点)と密接な関係がある。「東寺百合文書」は中世の荘園や寺院社会を知るうえで必須の史料群であり、1997年に国宝に指定され、2015年にはユネスコ「世界の記憶」(Memory of the World)にも登録されている。本文書の内容は同書と共通していることから、元来は一体のものだったと考えられる。さらに「東寺百合文書」同様、本文書もその価値を認められ、2009年に重要文化財に指定されている。

 その一方で、史料編纂所は長年「東寺百合文書」を調査・研究し、『大日本古文書 東寺文書』の編纂を行っており、その一環として、本文書を調査・撮影してきた。


画像のWeb公開について

 このように研究を深めてきたところ、2019年に、史料編纂所が日本学術振興会「人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築推進事業」(注4)の拠点として採択された。すでにこの事業の枠組みに基づき、宮崎県都城市都城島津邸所蔵史料の画像を史料編纂所のデジタルアーカイブズ(Hi-CAT plus)から公開している。それに続くものとして、史料情報のさらなる共有・利活用促進を目的として、琵琶湖博物館と史料編纂所との連携による史料画像の公開が目指されるに至ったのである。
 
 そもそも史料編纂所は、明治以来、国内外に所在する歴史史料の調査・撮影を継続してきている。近年では、収集したデータのデジタル化を進めるとともに、デジタル撮影からデータベース搭載にいたる過程を総合的に管理する仕組みを整えている。また、技術の進化にあわせてシステムを更新し、100年以上にわたる史料調査の成果を、常に最新の状態で蓄積している。このような実績が前提となって、琵琶湖博物館からご信頼をいただき、画像公開に向けた準備が着実に進んでいったのである。

 こうして今回のWeb公開が実現することにより、いつでも、だれでも、本文書の画像を、史料編纂所のデジタルアーカイブズを通して閲覧することができるようになった。具体的には、「日本古文書ユニオンカタログ」と「Hi-CAT Plus」(ハイキャットプラス)というふたつのデジタルアーカイブズから、閲覧が可能になっている。史料編纂所のデータベース検索画面(https://wwwap.hi.u-tokyo.ac.jp/ships/)から、日本古文書ユニオンカタログを選択して「底本名」の欄に「琵琶湖博物館所蔵東寺文書」などと検索すると、本文書が一覧表示される。そこから選択したい史料を選び、画像表示ボタンを押すと、史料画像があらわれるようになっている。また、Hi-CAT Plusを選択して「東寺文書(滋賀県所有分本)」などと検索すると、本文書の目録が表示される。ここからでも史料画像を閲覧できる(別添資料参照)。

 現在閲覧が可能なのは、史料編纂所が撮影した史料画像である。画像数でいうと、約447コマである。「日本古文書ユニオンカタログ」には、目録情報や本文テキスト(聖教や帳簿など一部の史料にはなし)も搭載しているので、史料名や史料番号、史料本文中に登場するキーワードからの検索も可能となっている。画像の利用条件については琵琶湖博物館に直接お問い合わせいただきたい。


本取組の意義について

 今回の史料画像のWeb公開は大きな意義を持つものである。本文書はこれまでも自治体史などの史料集によって部分的に本文などは紹介されているが、未紹介のものも多い。また、紙媒体の史料集では大量の図版を掲載するのは難しいため、画像まで紹介されている史料は限られている状態であった。

 今回の画像公開は、これらの課題を解決する突破口となるもので、未紹介史料については、今回の公開を機にはじめて本格的な検討が進められていくこととなろう。これによって、従来知られていなかった事実が解明され、中世の政治・社会に関する研究が深化していくことが期待される。また紹介済みの史料についても、今後は画像で史料の原態を把握したうえでの再検討が可能となり、新たな論点が導き出されていく可能性が高い。

 また、本文書と一体だったと考えられる「東寺百合文書」の画像は「東寺百合文書Web」で全点Web公開されており、本文書のWeb公開はその欠を補う意義がある。

 そして、こうした画像公開を契機とする新しい研究成果は、琵琶湖博物館の史料展覧会や、史料編纂所の史料集編纂に活かされ、それらがまた新たな研究を刺激していくことが見込まれる。つまり、研究の好循環が生まれることが期待されるのである。

 また日本史学に限らず、他分野の専門家や市民も容易に史料画像にアクセスできるようになった意義も強調しておきたい。今回公開される史料は、中世荘園の経営状況、ひいては当時の災害や古気候などを伝えるものを含むため、文理融合的な自然史研究や教育の場などで積極的な活用が期待できる。最新の研究成果を社会に還元し、人文知による貢献をなしとげる方法としても、史料画像のWeb公開の意義は大きいのである。

 

用語解説

(注1)滋賀県立琵琶湖博物館:世界有数の古い湖である琵琶湖に関わる自然・文化について、研究活動、資料収集、展示活動を行う県立の博物館。自然史資料のみならず、民俗・歴史資料も所蔵する。
 
(注2)日本古文書ユニオンカタログ:史料編纂所のデータベースのうちの一つ。古代・中世の日本で用いられた古文書の情報の網羅を目的とするもの。
 
(注3)Hi-CAT Plus (ハイキャットプラス):史料編纂所のデータベースのうちの一つ。史料編纂所がこれまで撮影・収集した国内および海外に所在する史料の画像データを閲覧するためのもの。

(注4)日本学術振興会「人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築推進事業」:「人文学・社会科学研究に係るデータを分野や国を超えて共有・利活用する総合的な基盤を構築することにより、研究者がともにデータを共有しあい、国内外の共同研究等を促進することを目指し」た事業(同事業 HP より)。史料編纂所は唯一の人文学拠点として採択されており、自治体や研究機関と連携して、史料画像の公開促進に取り組んでいる。 (事業HP:https://www.jsps.go.jp/j-di/index.html)  

お問い合わせ先

東京大学史料編纂所 IR・広報室
TEL 03-5841-1615
E-mail ir*hi.u-tokyo.ac.jp(*を@に変更して下さい)

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