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ウイルス再感染防御に必須のIgG抗体が長期間維持される仕組みを解明 一度で、長く守る 次世代ワクチンへの挑戦 研究成果

掲載日:2026年9月5日

  • ウイルス再感染防御に必須であるIgG抗体を産生する細胞が、IgM抗体を産生する細胞よりも優先的に骨髄の長寿命プラズマ細胞※1となる分子的な仕組みを解明
  • 免疫応答においてIgG抗体がIgM抗体よりも長期間血中に維持される仕組みは明らかになっていなかったが、IgG型B細胞受容体(BCR)※2の抗原提示※3能力の高さやIgM型BCRのシグナルによる細胞死誘導などの仕組みの組み合わせがIgG抗体の優位性につながっていることを示した
  • IgG型細胞の誘導やBCRシグナルの制御を通じて、効果が長期間持続するワクチン開発につながることに期待

概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)の田井優貴特任研究員 (現: 感染症総合教育研究拠点(CiDER)特任助教(常勤))、小池拓矢特任研究員 (現: 東京大学国際高等研究所新世代感染症センター(UTOPIA)特任助教)、黒﨑知博特任教授 (現: 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 特命教授)らの研究グループは、IgG抗体を産生する細胞が、IgM抗体を産生する細胞よりも優先的に骨髄の長寿命プラズマ細胞となる、IgG抗体優位性の分子メカニズムを世界で初めて明らかにしました (図)。
  図: 本研究のまとめ


感染やワクチン接種後の免疫応答では、初期にはIgM抗体が多く産生されますが、その後、血中抗体の中心はIgG抗体へと移っていきます。感染やワクチン接種から長期間が経過した後も、ウイルスなどに対するIgG抗体は血中に維持され、感染防御に重要な役割を果たします。しかし、なぜIgG抗体がIgM抗体よりも長期間維持されるのか、その仕組みは明らかになっていませんでした。

今回、研究グループは、[1] IgG型B細胞に発現するIgG型B細胞受容体(BCR)はIgM型BCRよりもT細胞への抗原提示の能力が高く、その結果、B細胞がプラズマ細胞へと分化した後の増殖が促進されること、[2] IgM型BCRから伝わるシグナルは、細胞死をより強く誘導すること、[3] IgG型プラズマ細胞は長期生存の場である骨髄へ効率よく移動することを明らかにしました。これら3つの仕組みが組み合わさることで、IgG抗体を産生する長寿命プラズマ細胞が選択的に増加し、IgG抗体が長期間維持されることが示されました。本研究成果により、IgG型細胞の誘導やBCRシグナルの制御を通じて、効果が長期間持続する新たなワクチンの開発につながることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Science Immunology」に掲載されました。

【黒﨑教授のコメント】

IgG抗体がIgM抗体より長く維持され感染防御(特にウイルス再感染)に重要であることはよく知られていましたが、その理由はわかっていませんでした。本研究では、抗体のクラスが、抗体産生細胞の増殖、生存、骨髄への移動を制御し、骨髄に形成される長寿命プラズマ細胞の数を左右することを明らかにしました。長く効果が続くワクチンの開発につながることを期待しています。
 

研究の背景

 B細胞は膜型抗体であるB細胞受容体を発現していますが、さまざまな刺激により活性化すると一部が分泌型抗体を産生するプラズマ細胞へと分化します。通常、リンパ節などでプラズマ細胞が形成されますが、大多数のプラズマ細胞は数日から1週間程度で死んでしまいます。しかし、一部のプラズマ細胞は骨髄へと移動し、そこで長期に生存して抗体を分泌し続ける長寿命プラズマ細胞へと成熟します。そのため、ワクチンの持続効果は中和抗体を産生する長寿命プラズマ細胞の数に依存していると考えられます。

抗体には、いくつかのクラス※4が存在し、B細胞は最初IgM型ですが、感染応答などによりIgG型へとクラススイッチ※5をします。感染応答の長期経過後はIgG抗体が優勢となることは知られていましたが、このIgG抗体の優位性はB細胞でのクラススイッチの割合だけでは説明がつかず、その仕組みは明らかにはなっていませんでした。
 
  • 研究の内容

研究グループは、タンパク質を免疫したマウスを用いて、免疫応答によって生じるB細胞、リンパ組織のプラズマ細胞、骨髄のプラズマ細胞を、それぞれIgM型とIgG1型(IgG型の一種)に分けて解析しました。その結果、B細胞からリンパ組織のプラズマ細胞、さらに骨髄のプラズマ細胞へと分化・移行するにつれて、IgG1型の割合が段階的に増加することを発見しました。

この偏りが生じる仕組みを調べたところ、IgG1型プラズマ細胞は、IgM型プラズマ細胞と比べて活発に増殖する一方、細胞死を起こす割合が低いことが明らかになりました。さらに、さまざまな遺伝子欠損マウスや阻害剤を用いた解析から、IgG1型プラズマ細胞の高い増殖能力は、IgG1型B細胞に発現するIgG1型B細胞受容体(BCR)が、IgM型BCRよりも効率よくT細胞に抗原を提示できることに由来することがわかりました。また、IgM型BCRから伝わるシグナルは、IgG1型BCRからのシグナルと比べて、プラズマ細胞の細胞死をより強く誘導することも明らかになりました。加えて、IgG1型プラズマ細胞はIgM型プラズマ細胞よりも骨髄へ移動しやすいことがわかり、この違いに関与する遺伝子の候補も同定しました。

以上の結果から、[1]プラズマ細胞の増殖、[2]細胞死からの生存、[3]骨髄への移動という3つの過程でIgG1型が優位になることにより、IgG1型B細胞はIgM型B細胞よりも多くの長寿命プラズマ細胞を生み出すことが示されました。この仕組みによって、IgG1抗体がIgM抗体よりも長期間にわたって維持されると考えられます。
 
  • 本研究成果が社会に与える影響

本研究成果により、抗体のクラススイッチそのものが抗体の種類を変えるだけでなく、抗体産生細胞の運命そのものを決定することが明らかにしました。本研究の成果は、より長期間効果が持続するワクチンの開発や長寿命プラズマ細胞を標的とした自己免疫疾患治療などへの応用が期待されます。

発表者

黒﨑 知博 (くろさき ともひろ)
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 招へい教授
岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 特命教授

小池 拓矢 (こいけ たくや)
東京大学国際高等研究所新世代感染症センター(UTOPIA) 特任助教


研究助成

なお、本研究は、大塚製薬、日本財団、日本学術振興会科学研究費助成事業、日本医療研究開発機構(AMED SCARDAワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 東京フラッグシップキャンパス(東京大学新世代感染症センター)、大阪府シナジーキャンパス(大阪大学ワクチン開発拠点))、ワクチン・新規モダリティ研究開発事業(100日でワクチンを提供可能にする革新的ワクチン評価システムの構築))、武田科学振興財団の支援を受けて行われました。

図はBioRenderを用いて作成しました。
 
  • 用語説明

※1 長寿命プラズマ細胞
プラズマ細胞は、活性化したB細胞から分化し、大量の抗体を産生する細胞です。その多くは比較的短期間で消失しますが、「長寿命プラズマ細胞」は骨髄へ移動して長期間生存し、抗体を作り続けます。感染やワクチン接種後の長期的な抗体の維持に重要な役割を果たします。

※2 B細胞受容体(BCR)
B細胞の表面に存在し、ウイルスや細菌などに由来する抗原を認識する分子です。膜に結合した抗体として働き、抗原を認識するとB細胞の活性化や分化を促すシグナルを細胞内に伝えます。本研究では、IgM型とIgG1型のB細胞受容体の働きの違いを解析しました。

※3 抗原提示
B細胞などが、取り込んだ抗原の一部を細胞表面に示し、T細胞に認識させる仕組みです。抗原提示を受けたT細胞はB細胞を活性化し、その増殖やプラズマ細胞への分化を助けます。本研究では、IgG1型B細胞がIgM型B細胞より効率よくT細胞に抗原を提示することが示されました。

※4 クラス
抗体は、その構造や働きの違いによってIgM、IgG、IgAなどの種類に分けられ、これらを抗体の「クラス」と呼びます。IgM抗体は免疫応答の初期に多く作られ、IgG抗体はその後に増加して、感染防御に長期間働きます。IgG1は、IgG抗体をさらに細かく分類した種類の一つです。

※5 クラススイッチ
B細胞が、認識する抗原は変えずに、作る抗体のクラスをIgMからIgGなどへ切り替える仕組みです。クラススイッチによって、抗体の体内での働きや持続性が変化します。本研究では、クラススイッチによって抗体の種類が変わるだけでなく、その抗体を産生するプラズマ細胞の増殖、生存、骨髄への移動にも違いが生じることを明らかにしました。

SDGs目標




 

論文情報

Yuki Tai, Takuya Koike, Hiromi Yamamoto, Kyoko Shida, Niklas Engels, Takeshi Inoue, Wataru Ise, Jürgen Wienands, & Tomohiro Kurosaki, "Positive selection of IgG over IgM plasma cells through BCR isotype-specific antigen presentation and signaling," Science Immunology: 2026年9月4日, doi:10.1126/sciimmunol.aee8841.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

お問い合わせ先

<研究内容について>

黒﨑 知博 (くろさき ともひろ)
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 招へい教授
岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 特命教授
https://www.mdps.okayama-u.ac.jp/research/researchfield/immune-regulation/

小池 拓矢 (こいけ たくや)
東京大学国際高等研究所新世代感染症センター(UTOPIA) 特任助教

<機関窓口>
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 企画室広報担当

東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター(広報)
https://www.utopia.u-tokyo.ac.jp/contact

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