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有機物と人のダイバーシティで夢を叶える。 | UTOKYO VOICES 016

掲載日:2018年3月6日

UTOKYO VOICES 016 - 有機物と人のダイバーシティで夢を叶える。

物性研究所 教授 森 初果

有機物と人のダイバーシティで夢を叶える。

透明なアルミナに微量のクロムが入ると赤いルビーに、チタンや鉄分が入ると青いサファイアに変わる。その理由を高校の先生に尋ねると、「大学の無機化学で学べる」とのこと。色の変化に魅せられた森は「宝石など、機能を持つ物質の起源を知りたい」と思い、お茶の水女子大学理学部に入学する。

大学4年の時に、有機半導体を研究していた丸山有成先生の研究室に入った。

「面白そうなのでやってみないかと、無茶振りな(夢のような)卒論テーマ『室温超伝導を目指した新しい分子内分極錯体の開発』を与えられ、取り組みました」。半導体である有機色素の性質を利用して、有機物で超伝導体をつくることが目標だ。

「修士2年秋にようやく第一歩となる結果を出すことができ、研究とは夢を実現することだと教えられました」と、当時を振り返る。さらに、卒論のテーマを追求するために大学院に進学。お茶の水女子大学大学院生として、丸山先生が転任された分子科学研究所の受託生となり、銅線のように電気を流す有機物質の合成や物性研究に没頭し、研究の面白さを身を持って味わった。

修士課程修了後、「就職が内定していたのですが、共同研究者の齋藤軍治先生から文部技官として来ないかとの誘いで、公務員試験も受かっていたので東大物性研究所に就職。働きながら博士号を取得し、10K(絶対温度。摂氏に換算すると-263.15度)を超える有機物超伝導体を発見しました」。これが、「東大物性研究所設立から60年の中で、唯一の女性教授」というキャリアにつながる。

こうした研究成果を上げる背景にはダイバーシティ(国籍・性別・価値観の多様な人との交流)がある。大学3年の時に親の転勤で米国ニュージャージー州立大学3年に編入して1年間の寮生活を送り、多様な国籍の留学生に混じって学ぶことで、ダイバーシティの楽しさや可能性、難しさを体験した。

日本は女性研究員が少なく(例えば物理学会は女性が6%)、最近も柏キャンパスで女子中高生を対象とした「未来をのぞこう!」や、「やっぱり物理が好き~物理に進んだ女子学生・院生のキャリア~」などイベントの開催や、東大の事業所内保育園の設立に尽力するなど、女性の活躍の場の拡大を目指している。「先輩をはじめ、いい仲間がいるからここまで来られた」と話す森は、研究だけでなくダイバーシティもライフワークだ。

「研究は同志の方が楽ですが、誰もやっていない新しいことをやり遂げるにはダイバーシティが不可欠」と語る。忍耐強くコミュニケーションし、異論をぶつけ合うことで視野が広がり、新しいことを発見する確率が高くなるからだ。実際、森は研究チームに女性や、他分野の外国人客員教授・研究員を迎えるなど、ダイバーシティを積極的に実践している。

人のダイバーシティに加えて、有機物というダイバーシティも森の高い研究成果に貢献している。元素の数は高々100種類であるが、炭素・水素・酸素・窒素原子などの組み合わせから作る有機分子は無限の組み合わせがある。つまり、アイディアを有機分子に落とし込む分子設計をし、それを有機合成することができる。いわば、有機物はダイバーシティそのものであり、有用な有機物を開発できるフィールドが広いのだ。

また、有機機能性物質の研究は「基礎と応用が一体化している」ため、社会のニーズに答えることができ、シリコンの代わりになる有機エレクトロニクスの世界を創出できるインパクトがあるという。「こうなるといいなと研究していると、自然が答えてくれるのです」と語る森は、有機機能性物質、および有機エレクトロニクス実現という夢に向かって着実に歩んでいるようだ。

取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

Memento

無限の組み合わせがある有機物の中から夢の室温超伝導物質を開発するためのアイディアを書きとめたノートとコンパクトハードディスクこそ、夢を叶えるツールであり源泉だ。ハードディスクに巻かれたゴムバンドには「TURN A NEW LEAF」の文字が

Message

Maxim

ロケットの父であるロバート・H・ゴダードの言葉を胸に、「研究は夢の実現でもある」ことを日々実践している

プロフィール画像

森 初果(もり・はつみ)
1984年お茶の水女子大理学部化学科卒業、1986年同大学院理学系修士課程修了。東京大学物性研究所文部技官、超電導工学研究所研究員、2001年東京大学物性研究所助教授を経て、2010年4月より同研究所教授(現職)。2016年に平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)、2018年に平成29年度日本化学会学術賞を受賞。

取材日: 2017年11月21日

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