
脳には視覚野や聴覚野があるのに、なぜ時間野はないのだろうか? | UTOKYO VOICES 028 (広報戦略本部) |
2018年03月23日掲載 |
実施日: 2018年01月19日 |
![]() 大学院総合文化研究科 生命環境科学系 准教授 四本裕子 脳には視覚野や聴覚野があるのに、なぜ時間野はないのだろうか?「私が見ているこの世界と、他人が見ている世界が同じである証拠はどこにあるのか……」 「目で見た物がなぜ見えるのかを、眼球の細胞のつくりから教えてくれるのが面白かったので行動文化学科の心理学専攻に進んだ」という四本は、卒論に熱中して気づいたら「就職活動のタイミングが終わっていたので、とりえあえず修士に行って考えることにしました」。ところが、修士時代も同じことを繰り返して博士課程に進む。 好奇心旺盛な猫のように、目の前に面白いものがあるとつい追いかけてしまうらしい。その後、次々に面白い謎解きに取り憑かれ、四本は幼稚園の頃に抱いた疑問に挑む研究者の道を歩むことになる。 博士論文のテーマは記憶。見た物をどのように記憶するのかを数理モデルを使って調べた。「被験者が見た映像が、記憶の中で曖昧になっていく様子を時間的に変化するノイズを用いて数学的に定義し、人の記憶を数式化して記憶のメカニズムを理論化しました」 その結果、複数の記憶がお互いに干渉しあう様子や、記憶が不正確になっていく時間特性も明らかにすることができた。 それまで理論寄りの研究だったため、学会発表しても多くの人は聞きに来ないことに物足りなさを感じていた。そこで、さまざまな情報が脳内で処理され統合されて「知覚・意識」となる過程を、行動実験や脳活動の測定を通して明らかにすることを目指すことにした。 パソコンのデータに保存しただけでは忘れてしまうので、自分のアイデアや思いをA4ノートに記録し20冊ほどになった。「アイデアは平面にして時系列に並べることが大事」と学生にも指導している。学生から聞かれた時に、その時には思い出せないがノートを見ると書いてあることが多く、役に立っている 「役に立とうなんて思っていたら基礎研究はできません。目の前にある小さな謎を追究することから新たな発見につながる」が、データがなければ始まらない。「研究者ならデータで語ろう、データこそが命。データを出さない者に権利はない」 現在最も関心あるテーマは、時間。「楽しい時間はあっという間に過ぎるのはなぜなのか? 脳は時間をどう認識しているか」 画像や音声は、それを検知する目や耳という感覚器官と脳が認識する視覚野や聴覚野がある。しかし、時間はそれを検知する感覚器官も時間野といった脳の特定部位もない。確かに不思議だ。 「とても面白くて、難しい問題です。結論から言えば、内臓感覚も含めた相互作用として、脳の部分ではなく、脳全体が活動してコミュニケートした結果、時間を知覚できていることがわかってきました」 つまり、脳は内臓も含めた神経が繋がっている全ネットワークで時間を検知・認識しているのだ。今後の研究で、「楽しい時間は長く、辛い時間は短く感じる夢のような機序」が明らかになるかも知れない。 「自分自身が日常的に知覚し感じていることが、研究内容に直結していることが、この学問の面白さです。小さなテーマであっても、謎だと思ったのは自分が初めてと思えることが楽しく、それを実験で確かめることができるのが喜びです」 「人生の目標は経験値を上げること。今までやったことがないことはとりあえずやってみたい、いろいろ経験して楽しかったと思う人生にしたい」と話す四本の夢は、優秀な研究者を育てることにある。それは、5年しか経っていない四本研究室から、東大総長賞を受賞した学生が2人も出ていることに結実しているようだ。 取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬 ![]() 四本裕子(よつもと・ゆうこ) 関連URL:UTOKYO VOICES 一覧 ![]() |
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