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Editor’s Choice

誰も知らない生き物を求めて

本邦106年ぶりのテヅルモヅル新種発見に至るまで

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理学系研究科・理学部
2018/05/22

テヅルモヅルという生物を知っていますか?

ウニやヒトデと同じ棘皮動物で、細長く何回も分岐した腕が神経細胞のようにも、植物の枝のようにも見えます。無数の触手を絡ませるように動かしながら海中を滑らかに移動する様子は幻想的でさえあります。

2008年3月、和歌山県南部沖の水深約30メートルで採集されたセノテヅルモヅル。蔓のように細かく分岐した腕が広がる。 CREDIT: 2018 岡西政典

2008年3月、和歌山県南部沖の水深約30メートルで採集されたセノテヅルモヅル。蔓のように細かく分岐した腕が広がる。
© 2018 岡西政典

クモヒトデ網ツルクモヒトデ目に属する深海性の生物で、その不思議な名前の由来は近畿地方の方言で「さまざまな議論があって結論が出ない状態」という意味だと言われていますが、蔓がもつれるように動く様子を表しているとも言われています。ただその生態はほとんど知られていません。大学院理学系研究科の特任助教、岡西政典先生(分類学)は現在、テヅルモヅル研究では世界でほぼ一人といえる専門家です。

世界各地での地道な標本観察が実を結び、このたびテヅルモヅルの新種発見につながりました。日本からのテヅルモヅルの発見は106年ぶり。発見の元となった標本に、昭和天皇が相模湾でご採取され国立科学博物館に保存されていたものが含まれていたこともあって、2018年3月の論文発表は広く報道されました。

2015年7月、高知県黒潮町沖の海中でテヅルモヅルの観察をする岡西先生。 CREDIT: 2018Masato Hirose.

2015年7月、高知県黒潮町沖の海中でテヅルモヅルの観察をする岡西先生。
© 2018 Masato Hirose.

テヅルモヅルは形態によって細かく分類されます。今回の新種はツルボソテヅルモヅル属としては世界で6種目。体の中心にある盤の大きさは直径5.3センチで、腕を伸ばすと30センチぐらいの大きさになりますが、この種を見分ける特徴は、体全体に見られる、直径わずか0.1ミリほどの微小な棘です。その棘にちなんで「トゲツルボソテヅルモヅル」と命名されました。

ネッシー伝説が分類学研究の原点?

3月に岡西先生が命名し発表したテヅルモヅルの新種、トゲツルボソテヅルモヅル。本邦における106年ぶりのテヅルモヅルの新種発見になった。 CREDIT: 2018 岡西政典

3月に岡西先生が命名し発表したテヅルモヅルの新種、トゲツルボソテヅルモヅル。本邦における106年ぶりのテヅルモヅルの新種発見になった。
© 2018 岡西政典

岡西先生(34)は、高知県の豊かな自然に囲まれて育ち、子供の頃から、スコットランドのネッシーやカナダに伝わるオゴポゴと呼ばれる巨大水棲獣など、いわゆる未確認生物にまつわる話が大好きだったといいます。大学2年のとき、研究室紹介のイベントで初めて分類学という学問に出会い、「直感的」に専門にしようと決意しました。

「小さい頃から、幻の生物を追う、とか巨大魚を探して、といった内容のテレビ番組が好きでした」と岡西先生は話します。「高校のときは自分の未確認生物への情熱を学問にできると思っていなかったので、大学で分類学を知ってビックリしました。珍しい生き物が見られる、楽しそうだと思って選びました」。

しかし、分類学の中でなぜテヅルモヅルを研究対象に選んだのでしょうか?

競争相手のいない領域

「その当時、大学の指導教官に図鑑を渡されて、研究する種を選びなさいと言われたのですが、(テヅルモヅルが所属する)クモヒトデは、動きがやわらかい感じもありつつ、硬い感じもあって、見た目のカッコよさを感じたんです。でも単純なカッコよさでいうと、(カニやエビなどの)甲殻類はやっぱりカッコいいんですよ。ただ、僕はあまのじゃくなところがあって、そのとき研究室で甲殻類をやっている人が多かったので、それに近いけれども違う動物がないかな、と思ってクモヒトデを選びました」。

2014年10月、東京湾沖100-150メートルから採集されたトゲオキノテヅルモヅル。 CREDIT: 2018 岡西政典

2014年10月、東京湾沖100-150メートルから採集されたトゲオキノテヅルモヅル。
© 2018 岡西政典

岡西先生は北海道大学を卒業後、クモヒトデ分類学の研究で知られ,今回の新種発見論文の共著者でもある大学院理学系研究科の藤田敏彦教授の門を叩きます。以来、次々と新種を発見し、昨年秋、海から「歩いて数分」の神奈川県三浦市の三崎臨海実験所に特任助教として着任しました。

知識がひらめきを呼ぶ

これだけコンピュータやインターネットが発達した現代においても、分類学者にとって大事なのは頭の中に蓄積された知識だと岡西先生は言います。

2009年2月に和歌山県南部沖の水深約30メートルから採集されたアカテヅルモヅル。 CREDIT: 2018 岡西政典

2009年2月に和歌山県南部沖の水深約30メートルから採集されたアカテヅルモヅル。
© 2018 岡西政典

「僕らって研究を始めると、最初の数か月はずっと文献をコピーしているんです。文献をずっと読んで、ああ、こういう種があるんだ、というのを覚えます。そのあと、実際の標本と突き合わせていくんですが、最初は全然わからないんですよ。採れたこのクモヒトデは一体何なんだろう、というところから始めて、持っている標本が新種かどうかわかるまでに1年ぐらいかかります。それが、ある時点から急にわかるようになる、というかひらめく感じが出てきます。常に頭の中でデータベースが構築されていく感じです」。

博物館もフィールドワークの現場

クモヒトデの研究者にとって、フィールドワークの舞台は海とは限りません。深海性の動物なので、研究者が実際に調査船などに乗って採集することは容易ではありません。ところが、博物館に行くと、誰かが何十年も前に採集したけれどもまだ名前のついていない種の標本がたくさん保存されているといいます。そこは研究者にとっては宝の山のようなもの。岡西先生も博物館に赴いてそうした標本を観察することが楽しみだと言います。また、最近はDNA解析も進んできています。

2008年8月、鹿児島県屋久島沖の水深約170メートルで採集されたコブシテヅルモヅル。 CREDIT: 2018 岡西政典

2008年8月、鹿児島県屋久島沖の水深約170メートルで採集されたコブシテヅルモヅル。
© 2018 岡西政典

「世界各地の博物館に行って(未整理の標本を)『見せてくれますか?』と言ったら大体みんな見せてくれて、そこに新種がいっぱいいる。博物館と交渉して標本の一部を切り取らせてもらってDNA解析をさせてもらうこともあります」。

3月の新種発見発表は、博物館に保存されている標本の学術的な価値を改めて世に知らせる結果になりました。

今後は、分類を続けつつもテヅルモヅルの生物学的な研究を深めたいと語ります。

「テヅルモヅル類ってものすごく研究が進んでいないんです。何をどうやって食べているとか、子供はどうやって生きていくのか、どんなふうに腕が分岐していくのか、といったことについてはまったく何も調べられていない。三崎臨海実験所はテヅルモヅルを飼育できる環境があるので、その状況を利用して、生殖発生だとか、分岐メカニズムだとか、そういった生態を調べていきたいと思っています」。

取材・文:小竹朝子

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