ARTICLES

English

印刷

ヒトのiPS細胞から成熟した肝細胞を簡便で効率的に作製する方法 新規に同定した肝前駆細胞マーカーが鍵

掲載日:2015年10月29日

© 2015 木戸 丈友(上図)肝臓の発生過程におけるCPMの発現。(下図)ヒトiPS細胞由来のCPM陽性肝前駆細胞から肝細胞および胆管上皮細胞への分化誘導。

肝細胞と胆管上皮細胞の分化と、CPMの発現の関係
(上図)肝臓の発生過程におけるCPMの発現。(下図)ヒトiPS細胞由来のCPM陽性肝前駆細胞から肝細胞および胆管上皮細胞への分化誘導。
© 2015 木戸 丈友

東京大学分子細胞生物学研究所の木戸丈友助教、宮島篤教授らの研究グループは、これまで簡便に作製できる手法がなかった、ヒトのiPS細胞由来の肝細胞を迅速かつ低コストで大量に調製できる方法を開発しました。本法で作製した肝細胞は、成熟肝細胞の性質を長期に渡って示すため、薬物の毒性試験、新規薬物の探索、細胞治療などへ利用されると期待されます。

肝臓は代謝の中心を担う臓器であり、その大部分を占める肝細胞は、種々の代謝酵素を発現することで、肝機能の維持に重要な役割を果たしています。近年、ヒトのiPS細胞から肝細胞を誘導する試みが行われていますが、未だ簡便で効率的な方法によって成熟した肝細胞を作製できる手法は開発されていません。

今回、研究グループは、成熟前の肝前駆細胞が成熟した肝細胞に変化する過程を捉えることのできる分子指標として、新たに肝前駆細胞の細胞膜タンパク質カルボキシペプチダーゼM(Carboxypeptidase M ; CPM)をマウスにおいて同定しました。マウスの肝臓が発生する過程で、マウス胎児期の肝前駆細胞に強く発現し、その発現は肝臓が成熟する過程で消失するため、CPMは肝前駆細胞のよい分子指標となりえます。さらに、ヒトのiPS細胞から肝細胞への分化誘導系において、CPMの発現を指標にして、細胞を分離したところ、簡便に効率よくヒトのiPS細胞由来の肝前駆細胞を分離することができました。また、このCPMを発現している肝前駆細胞から肝細胞と胆管上皮細胞を分化誘導できることがわかりました。

「私たちが今回作製した肝前駆細胞は、既存の培地から別の培地に培養する継代培養や凍結して保存することができます」と木戸助教は話します。「この細胞から分化誘導した肝細胞は、成熟した肝細胞の性質を二週間以上に渡り維持したので、今後、創薬研究や再生医療研究への利用が期待されます」と続けます。

プレスリリース

論文情報

Taketomo Kido, Yuta Koui, Kaori Suzuki, Ayaka Kobayashi, Yasushi Miura, Edward Y. Chern, Minoru Tanaka, Atsushi Miyajima, "CPM is a useful cell surface marker to isolate expandable bi-potential liver progenitor cells derived from human iPS cells", Stem Cell Reports Vol.5/1-8: 2015/9/11 (Japan time), doi:10.1016/j.stemcr.2015.08.008.
論文へのリンク(掲載誌

関連リンク

分子細胞生物学研究所

分子細胞生物学研究所 発生・再生研究分野

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる