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近藤状態によって散乱される電子波の位相のずれを初めて観測 40年前の予言を初めて実証

掲載日:2014年10月17日

1964年に近藤淳によって初めて理論提唱された近藤効果は、電子スピンが関与する多電子の相互作用効果の中で最も代表的なものとして知られています。近藤効果は、局在スピンとそれを取り囲む多数の伝導電子との間の相互作用によって生じ、局在スピンの磁気が伝導電子との結合によって打ち消される現象(遮蔽)です。近藤状態の電気的な性質は、近藤状態に入射する電子がどう散乱されるかで説明されます。局在スピンの遮蔽過程では散乱される電子のスピンは保たれますが、この現象の証拠は、散乱される電子の波動関数の位相がの90度のずれとして現れることが約40年前に予言されました。しかし、その検証実験は技術的に難しく、現在に至るまで世界中の研究者の挑戦を跳ね返してきました。

近藤状態にある量子ドットを通過する電子が獲得する位相の測定結果。上図は、2経路干渉計のAB振動(磁場Bの関数として振動する電流成分I)を量子ドットの準位を変調するゲート電圧Vpをパラメーターとして示したもの。下図は、上図の結果をもとに位相変化をVpの関数として抽出したもの(赤)。黒線は量子ドットを流れる電流値を示していて、2つのピークは量子ドット内の局在準位に対応する。これらのピークの間のVpでは近藤状態が形成され、そこでは位相変化が90度に固定される。

© 2014 Seigo Tarucha.
近藤状態にある量子ドットを通過する電子が獲得する位相の測定結果。上図は、2経路干渉計のAB振動(磁場Bの関数として振動する電流成分I)を量子ドットの準位を変調するゲート電圧Vpをパラメーターとして示したもの。下図は、上図の結果をもとに位相変化をVpの関数として抽出したもの(赤)。黒線は量子ドットを流れる電流値を示していて、2つのピークは量子ドット内の局在準位に対応する。これらのピークの間のVpでは近藤状態が形成され、そこでは位相変化が90度に固定される。

東京大学大学院工学系研究科博士課程の高田真太郎大学院生(当時)、山本倫久講師、樽茶清悟教授らの研究グループは、独自に開発した2経路干渉計に量子ドットを埋め込んで、この位相の90度のずれを初めて実験的に確認しました。その結果の明瞭さと重要さから、本成果は固体の電子物性分野の歴史的業績のひとつに位置づけられます。

本研究の成功の鍵となった2経路干渉計は、電子の散乱位相を高精度で検出できるものです。今回、この干渉計の有用さが改めて実証されました。また、同干渉計は、波動関数の位相を情報のリソースとする電子デバイスとなり得ることから、干渉を原理とする量子情報デバイスへの応用も期待されます。

本成果は、理化学研究所、仏国立科学研究センターネール研究所(Institut Neel)、独ルートヴィヒ・マクシミリアン大学(Ludwig-MaximiliansUniversity、独ルール大学ボーフム校(Ruhr-Universitat Bochum)のグループとの共同研究によるものです。

プレスリリース

論文情報

S. Takada, C. Bauerle, M. Yamamoto, K. Watanabe, S. Hermelin, T. Meunier, A. Alex, A. Weichselbaum, J. von Delft, A. Ludwig, A. D. Wieck, and S. Tarucha,
“Transmission phase in the Kondo regime revealed in a two-path interferometer”,
Physical Review Letters 113 (2014), 126601. Online Edition: 2014/9/15 (Japan time), doi: 10.1103/PhysRevLett.113.126601.
論文へのリンク(掲載誌, UTokyo Repository

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