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微弱な電流で、高齢者の体のバランスが長期に改善 痛みや不快感が生じない程度の微弱な電流を耳から加える

掲載日:2017年1月11日

© 2017 藤本千里nGVSの30分間刺激を、4時間の間隔で2回加えた際の身体のバランス感覚の改善効果を示す。刺激前の点線で示した値よりも刺激後の青線で示したバランスの指標が下回っており、改善の効果が見られる。

nGVSによるバランス改善効果
nGVSの30分間刺激を、4時間の間隔で2回加えた際の身体のバランス感覚の改善効果を示す。刺激前の点線で示した値よりも刺激後の青線で示したバランスの指標が下回っており、改善の効果が見られる。
© 2017 藤本千里

東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・聴覚音声外科の藤本千里助教、岩﨑真一准教授、山岨達也教授らの研究グループは、健康な高齢者に微弱な電流を耳から加えたところ、刺激を停止した後も数時間にわたって、加齢とともに悪化する身体のバランス感覚が改善する、という新しい現象をとらえました。本成果は、治療困難な身体のバランス機能の障害の新しい治療法開発の礎となるものと期待されます。

耳の奥にある平衡感覚を司る前庭器官は、身体のバランスを保つのに重要な役割を果たしています。前庭の働きが悪くなると身体のバランスが悪くなり、特に高齢者の前庭障害は、従来の治療では改善しないことが多く、有効な治療法がありません。

本研究グループはこれまでに、耳の後ろに装着した電極によって痛みや不快感が生じない程度の微弱な電流、経皮的ノイズ前庭電気刺激(nGVS)を加えると、健康な成人群や前庭の障害が認められる患者群において身体のバランス感覚が改善されること報告しています。しかし、この研究では、30秒間という短い時間のnGVS刺激中における改善が示されただけであり、nGVSによる長期的な改善の有無については明らかになっていませんでした。

今回研究グループでは、64~70歳の健康な高齢者30名に、nGVSの刺激を30分間与えた場合と3時間与えた場合のバランス感覚の改善を調べたところ、どちらの場合でも刺激終了後、数時間にわたり、バランス感覚の改善が持続することが明らかになりました。さらに、30分刺激を4時間の間隔をあけて繰り返すと、刺激終了後の改善効果が強まる傾向が見られ、改善効果の持続時間にも1回目の刺激に比べ延長していました。

本研究では、nGVSがその刺激を停止した後も長時間にわたって身体のバランス感覚が改善し続けるという、新しい現象を見出しました。常に電流の刺激をしなくても身体のバランス感覚の改善が持続することを示しており、今後の治療への応用に向けて期待が高まります。

「これまでの一連のnGVSの研究は、治療が困難であった身体のバランス障害に対する新しい治療法開発の礎となる」と藤本助教は話します。「今後、nGVSが前庭障害の患者において長期的な身体のバランス感覚の改善がみられるどうかをさらに検証するための臨床試験を予定しています。この臨床試験でnGVSの効果が証明できれば、nGVSが世界で初めて科学的に信頼性の高い、前庭障害による難治性の身体のバランス障害の治療法となりえるだろう」と続けます。

プレスリリース [PDF]

論文情報

Chisato Fujimoto, Yoshiharu Yamamoto, Teru Kamogashira, Makoto Kinoshita, Naoya Egami, Yukari Uemura, Fumiharu Togo, Tatsuya Yamasoba & Shinichi Iwasaki, "Noisy galvanic vestibular stimulation induces a sustained improvement in body balance in elderly adults", Scientific Reports Online Edition: 2016/11/21 (Japan time), doi:10.1038/srep37575.
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